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【独自アンケート】どうする平和教育 学校現場の苦悩

広島市が作成する平和教育の教材「ひろしま平和ノート」から「はだしのゲン」が削除され波紋が広がっています。学校での平和教育はいまどのような状況になっているのか知りたいと、NHKでは平和教育についてのアンケート調査を実施。すべての広島市立の小学校141校にアンケートを送付し、26校と無記名の学校の103人の教員から回答を得ました。その結果と教員たちへの取材から、平和教育の現在地を読み解きます。

(クローズアップ現代 取材班)

(NHKが行ったアンケ―ト)

広島の平和教育 充足度は?難しさは?

広島市は平和教育を教育の原点、最重要課題と掲げています。10年前からは独自に平和教育プログラムをつくり、「ひろしま平和ノート」という副教材を使った教育を年間3時間、実践しています。プログラムが始まった背景には、広島市教育委員会が行った調査で、原爆投下の年や日時を正確に答えられる小学生が全体の33%にとどまるなど、被爆に関する知識や平和に対する意識が、子どもたちの間で希薄化しているという課題がありました。

それから10年が経ったいま、アンケートで平和教育の状況について「どれぐらい充足度を感じているか」尋ねたところ9割近くが「感じている」「ある程度感じている」と回答しました。

▽感じている      19.4%(20人)
▽ある程度感じている  68.9%(71人)
▽あまり感じていない  9.7%(10人)
▽感じていない     0%(0人)
▽無回答        1.9%(2人)

その一方で、平和教育の実践に課題を感じている教員も少なくないことが見えてきました。「平和教育を実施する上で難しさを感じることがある」か尋ねたところ、「ある」または「少しある」と答えた人は63人で全体の6割にのぼりました。

▽「発達段階に即した教え方」          46%
▽「時間割りに平和学習を取り入れる余裕がない」 28%
▽「生徒に伝わっている実感がない」       26%
▽ 「指導方法がわからない、不安がある」  22%
▽「学習指導要領上の位置づけ」       18%

その理由について複数回答で聞いたところ、「発達段階に即した教え方」、「時間割りに平和学習を取り入れる余裕がない」、「生徒に伝わっている実感がない」、 「指導方法がわからない、不安がある」の順に多くなりました。

自由記述では、 いまの子どもたちに戦争を伝えることの難しさを感じているという教員の声が複数ありました。

「平和教育で学ぶ被爆のおそろしさがトラウマになってしまう児童がいる」

「戦争の悲惨さを伝えなければならないと思う反面、『こわい』『見たくない』と感じる子どもが増えており、指導のむずかしさを感じる」

「平和な世の中になりすぎて戦争が架空のこと、遠い昔の出来事としてうまく伝わる感じが持てない。戦争の話題にトラウマを持つ児童や、児童の見ている様子からうまく伝わっているのか不安になる」

また、教員を取り巻く環境についての課題も数多く寄せられました。

「教育の中立性を保つということで、学習内容を考えたり時間数の自由が失われている気がする。他に行うことが重なり過ぎており、十分な時間をそろえてじっくりていねいにということは難しくなった」

「平和教育取り入れたいが時間がない」

「資料に頼って授業作りをしているところがある。子どもたちに伝えるために、教員の研修が必要であると考える。教師の感性や意欲に制限が入るようになってきた」

「創意工夫を生み出せない勤務実態を見直して、現場に考える時間作ってほしい」

アンケートに回答した教員のひとりは、平和教育への思いはあっても、現実的に時間がない状況があると語りました。

「広島では地域に被爆体験をした人がいたり、碑があったり、子どもが戦争を身近に感じられるものはいくらでもある。そういった平和教材となるものをいかに掘り起こしていくか。そこに時間と労力をかけていくことが求められていると感じます。しかし、教材研究をする時間がなかなかとれない。自分の専攻、教科の教材研究があったりして、平和教育というものに時間を割けない。そういう先生はすごくたくさんいらっしゃるのかなと思います」

平和教育の“教材”として「はだしのゲン」は?

広島市教育委員会が「ひろしま平和ノート」の小学校3年生向けの教材に掲載されていた「はだしのゲン」を差し替えたことについて尋ねました。

アンケートに回答した103人の教員のうち、平和ノートの「はだしのゲン」を使って授業したことがあるという教員は72人。その先生たちに感想を聞いたところ、「効果的な教材だった」が61%と半数を超え、次いで「効果的な部分もあったが、効果的でないと感じる部分もあった」が36%。「効果的ではない教材だった」は1%となりました。

また、「はだしのゲン」が平和ノートからなくなったことへの考えも聞きました。

▽「判断は妥当」            18%
▽「判断は妥当だと思うが疑問はある」  22%
▽「判断は妥当ではない」        24% 
▽「いずれでもない」          34%


「判断は妥当」という回答が18%。その一方で、「判断は妥当だと思うが疑問はある」が 22%、「判断は妥当ではない」が24%と、疑問を感じたり妥当でないと考えたりしている教員も一定数いることが分かりました。

判断は妥当と回答した教員からは、
・「今の時代の子ども達にはこわい印象だけが残り伝わりづらいように思う」
・「はだしのゲン」は教材としてとても訴える力があると思うが、平和ノートのような細切れな取り上げ方で、知っているような気にさせるのはもったいない」
といった、限られた時間で扱わない方がいいとする意見もありました。

一方で疑問がある、妥当ではないと回答した教員の中にもさまざまな意見がありました。例えば、これまでとは違った扱い方でもゲンは教材に残すべきだったとする教員。

「3年生の教材としては難しい面もあったと思うが、なくす必要はなかったのではないか。学年を変えて使用する方法もあったのではないかと思う」

「まん画の中の別のエピソードを使うことも考えられるのではないかと思う」

「はだしのゲン」の作品の価値に言及する意見も多くありました。

「広島の原爆について学ぶのに「はだしのゲン」が一番いい教材だと思うからです。広島市に住んでいる以上「はだしのゲン」を読んでおくことはとても重要な事だと思いますし、そのきっかけとして平和ノートに載せておくのはいいなと思っていたからです」

「子ども達にとって庶民のつらさというか、一人一人、個人個人の思いや生活にふれることのできる一つの教材だと思っていた。私自身も子どもの頃読んで感じたことはたくさんあった」

「広島で起こったことを実体験された方が描いており、本当にあったことや時代背景などもわかりやすい。絵が子どものころは「こわい」と思って読んでいたが本当のことを伝えるためには必要だし戦争や原爆がおそろしいもの、こわいものという感覚をもつことは大切だと思う」

回答の中で最も多かったのが、市の削除の判断について「いずれでもない」というもの。その自由記述には、「市の方針ですので」、「考える余裕がないのでどちらでも良い」などの声がありました。

「平和教育プログラム」から10年

「ひろしま平和ノート」を使いはじめて10年。この教材についての感想を聞いたところ、8割以上の教員が「授業を行う助けになっている」と回答しました。実際に、自分自身も経験していない戦争について勉強する時間がない中で、平和教育の授業の柱となる教材(平和ノート)があるのは助かるという意見は多く見られました。

一方で、平和教育の授業が平和ノートに頼りっきりになることに危機感を持つ教師も少なくありません。これまで取材をした教員の中には、ノートがあることで教員の熱量によっては形式的になってしまった部分は問題だとか、授業の形骸化を危惧しているとする人もいました。

アンケート調査や取材に対し、本当はもっと平和教育の授業を発展させたい、自分が子どものころうけた授業のようにさまざまな資料や映像を見せながらやりたいと訴える教員も複数いましたが、そういう意識を持っている教員の多くは「とにかく教材研究する時間がない」と、なかなか思うように授業を作り上げる余裕がない現状が感じられました。

広島市教育委員会は現場の状況をどのように認識しているのか。平和教育を進めるうえでの課題について聞きました。

広島市教育委員会 学校教育部 指導担当部長 中谷智子さん

「広島市においては、被爆の実相に学んで、それを継承し発信していくという平和教育を行っています。その被爆の実相に学ぶ、被爆者が高齢化しておられます。子どもたちから話を聞くと、まだギリギリ肉親からも被爆の体験が聞けるという世代ではあるようですが、今後やはりそこも難しくなってくるだろうということは考えられます。そういったことも考えながら、本市における平和教育を今後どのように進めていくのかというところは、しっかりとまた見据えていかなくてはいけないところだろうなと思っていまして、このたびの平和教育プログラムの改訂の中でも、教育内容である平和ノートを改訂したわけですけれど、もしかしたら、プログラム全体をもう一度見直さないといけないかもしれない。細かなことで言えば、いま行っている時間数も十分なものなのか、そういったところも検討していかなくてはいけないと思っています」

戦後78年、時代や社会の状況が変化する中で、学校教育の場で良い平和教育をどのように実践していくことができるのか。課題を感じながらも日々子どもたちと向き合う被爆地広島の教員たちの模索を今後も注視していきたいと思います。

みんなのコメント(36件)

感想
誰かのYouTubeアカウント
19歳以下 男性
2023年9月14日
戦争の悲惨さや核兵器の危険さを伝えることは大切だと思いますが、それだけではなく沖縄を取り返すために奮闘した義烈空挺隊、北海道が占領されることを防いだ樋口季一郎氏などの活躍なども後世に残し、戦争には負けたが、先人たちは頑張って当時を生きていたことも教科書で伝えていく事が大切なのではないでしょうか?と思いました
体験談
ゆうりょう
40代 その他
2023年9月8日
私は原爆記念日は夏休みでしが登校日でした…びっくりしたのが広島長崎以外のかたは普通に夏休みだったて…これって…
私は千羽鶴もおって長崎・広島送ってます。
提言
福道
40代 女性
2023年8月16日
記事を読み、悲しくなりました。平和学習をプランニングできないというのがどの世代の教師の声なのかは分かりませんが、だからこそさまざまな世代の教師がいて、平和学習や人権学習を実践できるのだとおもいます。歴史について学ぶ場所は自分の心次第で、資料館や語り部さんの話は無料とは思えない価値があるものばかりです。30分でも資料館に行ったりして、自主的に学び、日頃から折りに触れて教科書の話などと関連づけて平和の尊さを伝えていくべきだと思いました。大人として、子どもたちを戦地に送らない社会を築きたいものです。
感想
やまが
2023年8月16日
はだしのゲンが教材から削除された事について、その経緯に不透明なところがあったのなら、開示資料や関係者への取材にしぼって構成すべきだったと思います。経緯が不透明である時点で調査・報道する理由になり、教育現場の声だの「はだしのゲン」の「価値」だのとは無関係です。
提言
コトコト
40代 男性
2023年8月7日
はだしのゲンから伝わる恐さには、これ以上の怖いものは世界に存在しないのだということを知らせる重大な意義がある。この原爆による殺戮やその害が、人類にとって永久に最悪、という限界の概念を子供らに知らせることで教育や子供らの人生に非常に有益であると思う。
悩み
まめこ
60代 女性
2023年8月6日
沖縄においても平和教育へのジレンマがあります。体験者が減る一方で、体験者の声を聞く機会が少なくなりました。平和に対しても自分ごとでは考えられなくなっています。教科学習に重きが置かれ平和教材を読み込む時間が取りにくいことが挙げられる気がしています
感想
かに
40代 男性
2023年8月6日
放送内容をテキストで読みましたが、目の前の事実だけに焦点を合わせてしまって、受け手側の考える余地が少なくなっていることが問題ではないかなと感じました。記事の中で鯉を盗んだ行為が問題視されていましたが、「この人はこういうことをした」という感情的な捉え方ではなく、「この人はどういう背景があってそうしてしまったのか」を考えていかないといけないのではないかなというか。
感想
猫大好き
60代 女性
2023年8月3日
現在の授業時間数や先生方の負担を考えると平和教育を授業に組み込む事は難しいのかも知れません。 原爆体験者も少なくなり、語り継ぐ大切さも感じています。学校以外で学ぶ場所や少なくとも事実を理解する機会があると良いと思います。 広島出身者、身内に被災者が居た者として深く考えさせられる問題です。
提言
時間不足に悩める教員
60代 女性
2023年8月3日
戦争は政治の最大の失敗です。平和教育、戦争を二度とさせないためにということを考えさせていくためには、政治的な内容に年齢に応じて触れていくことは必然だと思います。政治の「中立性」に恐れをなして、政治から何でも遠ざけて教育を進めれば、若者ひいては国民の政治離れが拡大します。それでは冒頭の「戦争は政治の失敗」を再び繰り返す負の礎を築くことになり遺憾なことと思います。なぜ戦争になったか、そのとき世論は、世論誘導は、真実は、と突き詰めて考えさせることが必要だと思います。勿論年齢に応じてのことです。
感想
徳升 毅
50代 男性
2023年8月2日
今日のクローズアップ現代に猛烈に抗議したいです。私は長崎出身ではだしのゲンの在り方にいろいろな意見があることは理解しているつもりです。小学生時代にはだしのゲンを読みましたが、今では理解できますが途中から政治色が強く戦争の悲惨さを表現するものから離れすぎてわかりづらい漫画であったと思います。番組の後半、沖縄の平和教育の映像で小学校教師が戦争が敗局に傾いている時期に旧日本兵が市民が邪魔になったと児童に語っているところだけ放送することは非常に違和感を感じます。全力で住民を守ろうとした方々もたくさんいるはずです。戦時中に生きてきた日本人がいかなる思想を持っていたとしても悲惨な結果しかない、だから戦争はしてはいけないんだという結論だと個人的に思います。ご先祖様である沖縄守備隊が市民住民を邪魔だと思うような人間だったとすれば、日本はあるいは子孫である我々は人間的に存在する価値がありません。公平に!!!