友人が聴いている曲を今聴ける 音楽SNSの革命
スポッティファイの実力(下)
1600万を上回る曲をストリーミング配信し、有料コースでは曲をダウンロードしてオフラインで聴くこともできる。スポッティファイ(Spotify)の音楽クラウドサービスとしての魅力は、他のユーザーとの交流機能でさらに高まる。目玉は2011年秋から始まった世界最大の交流サイト(SNS)、フェイスブックとの連動だ。実際に何ができるのだろうか。
交流機能の最大の効果を一言で表現するなら、「音楽の貸し借りがほぼ不要になる」ということだ。利用者が自分のフェイスブックのサイトなどで紹介するだけで、友人も曲を聴くことができる。
巨大なライブラリーの様々な曲に触れる機会が増え、利用者はこれまでより幅広い音楽体験を味わえる。さらに曲を通じて、新しい友人関係を築くこともできるだろう。
既にサービス提供国ではフェイスブックの利用者がログイン時に使うメールアドレスとパスワードでスポッティファイの無料会員に登録することが可能。登録したら、あとはフェイスブック上でスポッティファイの専用アプリを導入するだけで、近況や写真を表示する「ニュースフィード」に聴いている曲が表示されるようになる。
それを見た友人も曲を聴きたいと思ったら、スポッティファイのアプリで聴ける。フェイスブック利用者は世界で9億人といわれるだけに、SNSとの連携は利用者開拓の大きな力にもなっているようだ。
スポッティファイ独自の交流機能もある。パソコン用アプリを立ち上げると、「People」のコーナーに並ぶ写真には、フェイスブックの友人以外の人も混じる。スポッティファイの機能で、利用者が加えた人たちだ。
例えばトップ画面の「Top playlists near you」(利用者の好みに最も近いプレイリスト)で選んだ曲のリストが気に入り、その作成者を覚えておきたい時には「People」に加えておけばよい。
さらに「Favorites」という機能を使えば、画面の右サイドに彼らが聴いている曲や、プレイリストに加えた曲がリアルタイムに通知され、それを聴くことができる。もちろん自ら作ったプレイリストを公開したり、これらの人たちにメッセージを送ったり、好きな曲を紹介したりすることもできる。
これら一連の機能を使って驚いたこともある。アプリで紹介された少なからぬプレイリストが日本人の手によるものだったことだ。海外在住者がほとんどと見られるが、すでに多くの日本人がスポッティファイを利用していることがうかがえる。
そこで海外の大手通販サイトを調べてみると、日本国内の在住者向けにスポッティファイの登録代行を行う業者が存在することもわかった。「利用権」を他のユーザーに贈るギフトの仕組みを活用し、米国や英国で手続きを行っているようだ。
料金は20ドル以上のものが大半で、利用期間も1カ月。どんな販売業者か判然としないし、日本でも音楽が聴ける有料の「プレミアム」が米国で月額9.99ドルであることを考えれば、おすすめできる商品とは言い難い。それでも昨年から継続的に出品されているのは、それだけの需要があるからなのだろう。
スポッティファイのこのほかの機能では、パソコン用アプリのコレクション(Collection)を紹介しておきたい。
コレクションで示されるのは自らが購入してパソコンなどに保存した楽曲のリスト。筆者の場合は、パソコンにインストールしたアップルのアイチューンズ(iTunes)に保存した曲がすべて現れた。アプリではこれらの曲も聴けるし、アーティスト名をクリックすれば、スポッティファイのアーティストのページで配信中の全アルバムとシングルが表示された。その上部には関連するアーティストの一覧も示され、各アーティストのページにも行ける。スポッティファイを使うことで音楽のコレクションが飛躍的に広がることを実感させる機能だ。
ただ、コレクションの一部はアーティストやアルバムタイトルなどが透過色で薄く表示された。これらはスポッティファイが扱っていない曲。筆者のコレクションの場合、日本人アーティストが薄く表示されるケースが目立った。
日本進出となれば、利用者は当然ながら国内アーティストの曲の配信も期待するが、実現性はあるのだろうか。
この問いの答えは、イエスであり、ノーとも言える。なぜなら既に海外で活躍する日本人アーティストの楽曲は、十分そろっているからだ。クラシックでは指揮者の小澤征爾、バイオリンの五嶋みどり、ジャズの渡辺貞夫、小曽根真、ポップスではPUFFY……。ほかにも多数の日本人アーティストのアルバムが配信されている。
一方で、ある音楽業界の関係者は「国内の有力レーベルは最新の曲の配信には強く抵抗する」と見る。CDからネットを通じたダウンロード販売が中心になりつつあるとは言え、音楽業界の柱が楽曲の販売であることは変わりない。音楽クラウドで配信する曲のライセンス料が、楽曲販売への負の影響をカバーできない場合は「音楽クラウドへの提供はぎりぎりまで引き延ばすはず」(業界関係者)という。実際、音楽クラウドの国内展開を打ち出すソニーも国内のヒット曲などの配信は「現時点では未定」としている。
スポッティファイはサービス提供国で楽曲のネット販売も始めている。この仕組みの実現が国内の楽曲配信のカギになりそうだ。
とはいえ、現状の1600万曲以上のライブラリーだけでも洋楽やクラシックのファンを十分に満足させられるだろう。さらに、これらの曲をパソコンやスマートフォン(高機能携帯電話)だけでなく、オーディオ機器につないで聴くことができるようになれば、楽曲販売中心の音楽業界のビジネスモデルも転換を迫られるのではないか。
最後にiPhone(アイフォーン)に、アップル以外のあるメーカーが販売するアダプター(アップルは動作保証をしていない)を取り付け、デジタル音源のアナログ変換機能を持つヘッドフォンアンプと手持ちの古いコンポにつなぎ、スポッティファイの曲を聴いてみる。スピーカーからはあっさりと満足のいく音質で曲が流れ始めた。
同社のサービスは、1台のスマートフォンが巨大な音楽ライブラリーになる時代が到来したことも示す。既にオンキヨーが欧州などでスポッティファイに対応したオーディオシステムを販売するなど、電機業界でも音楽クラウドという新しい市場への挑戦は静かに始まっている。
日本音楽著作権協会(JASRAC)によると、現時点ではスポッティファイから国内展開の連絡は届いていない。だが、その到来を待ちわびているのが、国内の音楽ファンだけではないことは確かだろう。
(生活情報部 望月保志)
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