日本、「シナリオ」裏切る完勝 ラグビーW杯
「後半の持久力勝負」という日本のシナリオは完全に裏切られた。かなり理想的な形で。「サモアが主導権を握るのではなく、日本が最初の20分で先手を取れた」。ロック大野は胸を張る。
開始直後、SO小野の好タックルで落球を誘う。周囲も続く。ウイング松島とフルバック五郎丸は2人掛かりで相手を止める。巨漢ぞろいの相手の突進がさほど前進できない。自陣深くまで攻め込まれた前半27分には、松島のタックルから五郎丸が球をもぎ取る。この手の"汚れ仕事"があまり得意でなかった2人の連係による、ビッグプレーだ。
前回大会の決勝をさばいたジュベール主審の笛も「日本に有利」(リーチ主将)と事前に読んでいた通り。最大の懸念だった密集戦でサモアがボールに絡むプレーを厳しめに吹いてくれたおかげもあって、日本は次々ボールを確保できた。
守備の健闘と意に沿わぬ笛がサモアの心を砕いていったのだろう。密集の周辺で反則を連発。パスミスや落球も止まらない。最初の20分間に、危険なタックルで2人の一時退場者を出すほどの乱れよう。
世界ランキング1位のニュージーランドと7月に16-25の接戦を演じたほど本来は地力のあるチーム。精神的な波が大きいとはいえ、今大会でこれほど乱調のチームは今までなかった。
崩れたままの相手を尻目に日本は安定軌道に乗っていく。試合の土台となるスクラム、ラインアウトはこの日も安定。「FWが素晴らしかった」とジョーンズ・ヘッドコーチは褒める。
スコアも順調に伸びる。前半8分にPGで先制すると、相手が2人欠けているうちにスクラムで認定トライ。さらにPGを加え、連続攻撃からトライを挙げる。互角で食らいつけば合格の前半を20-0と望外のスコアで折り返す。「サモアはここまで来ると追いつけない」。ジョーンズHCは既に勝利を確信していた。
後半最後の20分になってようやく、サモアが半分目覚めた。密集戦で日本ボールを相次ぎ奪取。前半の攻め疲れが多少出た日本は初めて劣勢に回る。
突進する相手の体の前に頭をねじ込む、勇敢だが危険度の高いタックルの代償で山田が頭を打って交代。センターのサウも退いたことでバックスが足りなくなる不測の事態も手伝い、日本の攻撃の切れ味は落ちた。
相手を突き放すはずの終盤で逆に押される小さな誤算は、リーチ主将の判断にも微妙に影響した。8強進出には、ボーナスポイントの勝ち点1が得られる4トライ目がほしかった。19点リードの後半28分、敵陣で獲得した反則で主将が選んだのはPG。
タッチラインに蹴り出してトライを狙わなかったのは「それまでの攻撃で自分たちの足も(疲労が)ちょっとたまっていた。サモアがどっからでもトライが取れるチームだから、勝つことが一番大事だと思った」。勝ち点は痛かったが、逆に、前半の先制攻撃がそれほど完璧に決まったという裏返しでもある。
この勝利の意義は、初の1大会2勝目で「歴史を塗り替えた」(ジョーンズHC)ことだけではない。
日本代表史上最年長キャップを更新した37歳大野は「(初戦で)南アフリカにかってラグビーブームになって、(その後の)スコットランドで大敗してしまった。このサモア戦が上に向かうか下降するかの勝負の試合だった」。今後のラグビー人気を左右する一戦と捉えていた。
ただ、試合の中身には不満の声もある。「悪くない。でもまだまだ完璧じゃない」とロックのトンプソン。ジョーンズHCも「W杯のレベルでもっとできたはずのプレーができなかったことは残念」と話す。確かにヒヤリとするパスミスや不用意なキックもあったし、トライを狙っていたモールも押し切れなかった。
大金星となった南ア戦のようにベストの試合をしたわけではない。にもかかわらずサモアという巨像の鼻をへこませた。それが今の日本の実力ということだろう。(谷口誠)