人気や分配金につられ… NISA、残念な商品選び
非課税枠、使い切ろうと焦るのは禁物
にいさ パパ。大丈夫?
とうしろう いや、サンタさんが私にも来たらなと思ってね。バーバラさんは今、何が欲しいですか?
バーバラ 特に欲しい物はないですけど、年末年始は休暇をとりたいです。
にいさ デートで食事に行くヒマもないものね。大変だ。
とうしろう また変な態度をとるなあ。私は年末までに30万~40万円が欲しい。
にいさ そんな高いクリスマスプレゼント、私もママも要求しないわよ。
とうしろう なんで少ない小遣いから、そんな高額品をママや新衣紗にあげなきゃいけないんだ。私は少額投資非課税制度(NISA)の枠を使い切るのに、お金が欲しいんだよ。
バーバラ 今年の100万円の上限まで投資するということですか?
とうしろう そうなんだ。我が家で私に許されたのは少額の投資信託の積み立てだけで、年100万円にならない。へそくりから投資するつもりだったけど、何を買うか決めかねているうちに、もうすぐ年末だよ。
りこ またドカンと一発とか考えてるんでしょ。
とうしろう いつまでも進歩のない男と思うな。これを見ろ。大手証券のNISA口座で今年買われた商品のランキングだ。投信は毎月分配型、株式は高配当株が上位だぞ。私も時流に乗って投資するつもりなんだ。
バーバラ 研究はいいことですよ。でもランキングのどこを見ていますか?
とうしろう そりゃ順位の高さですよ。もちろん分配金や配当の額もチェックしてますよ。
バーバラ Oh! 人気の順位、分配金や配当の額だけで選ぶのはお勧めできませんね。どれだけ投資の利益が上がるかは結局、購入したときの価格で大きく左右されます。慎重に判断しないと購入後に値下がりし、購入価格を下回り続ける「高値づかみ」になりかねません。
とうしろう そんな言葉も知っているんですね。確かに安く買えるに越したことはないですが。
バーバラ 特に投信を買う場合は分配金に注意が必要です。分配金は2種類あることを知っていますか。
にいさ 大学のゼミで勉強したわ。普通分配金と特別分配金ですよね。
バーバラ そうですね。普通分配金は元本を上回った利益を投資家に還元し、特別分配金は元本払戻金とも呼び、元本を取り崩して返します。いずれも投信の基準価格はその分、下がります。例えば1万円で投信を購入した人が分配金を2000円受け取った後の基準価格が9000円だったとしましょう。分配金込みの運用結果は1万1000円です。元本を上回った1000円は普通分配金で、NISAの非課税の恩恵を受けます。残りの1000円は特別分配金になりますが、もともと非課税なのです。
とうしろう つまりNISA口座で受け取るメリットはないということか。
バーバラ 毎月分配型投信では運用益が出ていなくても、分配金を出すため元本を取り崩す例があります。投信を購入する際は、基準価格の推移などの運用成績や分配金をどの程度の回数出しているかといった点をよくチェックしておきたいですね。
りこ 高配当株も注意点はあるのかしら。
バーバラ 配当はNISAで受け取ると非課税メリットがあります。ただ株式を購入したあとに株価が配当額以上に下落すると、投資のトータルの損益はマイナスです。企業の業績が悪くなれば配当を減らしたり、取りやめたりすることもあるので、慎重に判断したいですね。NISA口座で損失が出ても、ほかの課税口座と損益通算ができない点も注意が必要です。
とうしろう 理屈はわかったけど、年末まで時間がない。やはりドカンと一発を狙えるものをカンで探すか。
バーバラ もう一度、商品選びの基礎を復習してはどうでしょうか。例えば、よりリスクをとって値上がり益を目指すなら中小型株や新規株式公開(IPO)銘柄、アクティブ型投信などが選択肢になります。利益が出た場合の非課税効果は大きいですが、もちろん値下がりして損失を抱える可能性もあります。
りこ パパ、手を出さないでよ。
バーバラ 安定した運用を期待するならインデックス型投信を選ぶ手もあります。市場全体の動きを示す指数(インデックス)と同じ値動きになるように運用する投信です。値上がりしても市場平均並みですから、ほかの人を大きく上回る利益を上げることは難しいですが、信託報酬や販売手数料などのコストは安いのが特徴です。積立投資向きとされています。
にいさ 投資先選びはやっぱり、大変ね。パパ、へそくりがあるなら私に投資してよ。年末に海外旅行で社会勉強してくるから。
とうしろう サンタさんにでも頼みなさい。
金融商品、運用歴や値動きも見極めを ファイナンシャルプランナー 深野康彦さん
NISAの毎年の投資枠は上限まで使わないと「もったいない」と考える個人投資家は多く、金融機関も駆け込み需要の獲得に力を入れています。ただ実際にお金を動かす前に「非課税メリットを受けられるのは利益が出た時だけ」という原則を見つめ直した方がいいでしょう。枠を使い切ることに目を奪われて冷静さを欠き、損失を出しては本末転倒です。
金融商品を選ぶ際は人気ではなく、中身を見極めることが大切です。例えば毎月分配型投信ならまず運用歴が長く、過去数年間の値動きが分析できるものから選ぶのが基本です。利回り株は株価変動に加えて業績推移、配当の原資になる利益剰余金の変化などがチェックポイントになります。年末に慌てて投資対象を探すより、来年以降を見据えた長期の投資戦略を立てる方が運用の成果は大きいかもしれません。
[日本経済新聞朝刊2014年11月15日付]