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バイオエタノール「第2世代」元年 世界のVB、脱食糧原料へ

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バイオマス(生物資源)エネルギーの世界が、新たな局面を迎えようとしている。主役は自動車燃料への利用が期待されるバイオエタノール。今年中に、麦わらなど食糧以外の原料を使う"第2世代"の量産試験が各国で一斉に始まるのだ。米政府の関心も高く、第2世代の消費量が10年後に食糧原料の第1世代を超える中期構想を描く。低コストの量産技術など本格普及へのハードルはなお高いが、「食糧かエネルギーか」の二者択一の悩みから脱する可能性が出てくる。

英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、英BP、米デュポン――。先行する穀物メジャーに続き、オイルメジャーや化学大手などがここ数年、第2世代バイオエタノールを手掛けるベンチャー企業(VB)の囲い込みに動いている。「ビッグプレーヤーが出そろった」(関係者)格好で、新たな量産技術の離陸が間近に見えてきたことが背景にある。

実際、12年中に世界各国のベンチャーが量産化に向けた第一歩を一斉に踏み出す。例えば米コロラド州に本社を置くベンチャー、ジーケム・インコーポレーテッド。今年10-12月中にもポプラなどの木材原料からバイオエタノールを生産する試験プラントを稼働させる予定だ。同社の支援企業には米P&Gや伊藤忠商事など世界の大手企業が名を連ねる。

ジーケム以外に米ポエト(トウモロコシの芯などが原料)、カナダ・エナケム(都市ごみが原料)、イタリア・ケムテックス(麦わらなどが原料)なども12年中に商業プラントを立ち上げる予定。いずれも試験生産だが、12年はバイオエタノールの"第2世代元年"としてバイオマス産業史に刻まれそうだ。

トウモロコシやサトウキビから生産する第1世代バイオエタノールの世界生産量は約8000万キロリットル。米国とブラジルだけで9割程度を占める。原料の穀物生産国である両国ともに農業振興、エネルギー自給、温暖化防止という3つの政策観点から輸送用(自動車用など)燃料への混合を推奨していることが大きい。

両国のようにバイオエタノール、バイオディーゼルなどを自動車、航空機、船舶の燃料として利用する動きは、徐々にではあるが各国に広がりつつある。国際エネルギー機関(IEA)などの予測によると、こうした輸送用バイオ燃料の世界需要は10年の5500万トン(石油換算)から、35年に1億9000万トン、50年には7億5000万トンに拡大する見通し。

だが、中国やインドなど新興国の生活水準の向上に伴って穀物需要が拡大するなか、穀物のさらなるエネルギー転用は食糧の需給バランスを脅かしかねない。「食糧かエネルギーか」の二者択一は国際社会から到底受け入れられず、バイオ燃料が予測通り普及するかは、第2世代の早期立ち上げにかかっている。

米政府が策定したバイオ燃料導入計画では、11年の140億ガロンから22年には360億ガロンまで増えるが、トウモロコシ原料の第1世代は将来にわたって150億ガロンを超えて作らせない方針。増加分の大半は第2世代を早期に事業化することで対応する構えだ。

ただ、眼前には3つのハードルが待ち構える。第1に政策出動を含めた需要開拓。自動車燃料への混合比を高めるなどの政策誘導がポイントだ。第2に原料調達の効率化。農業残さや木材などの原料をいかに低コストで集荷できるかは、事業化に欠かせない視点となる。

最後が低コストでの量産技術の確立。12年中に試験生産が相次ぎ始まると言っても、「製造コストをどれだけ下げられるかが事業化の最大の課題」(三井物産戦略研究所の宇野博志氏)。第2世代の製造方法は、(1)生物的変換、(2)熱化学変換と大きく2つに分けられる(ジーケム社の方法は2つの融合型)が、いずれも技術的なブレークスルーを実現しないと事業化は困難とされる。

生物的変換は、原料に含まれるセルロースを発酵させてエタノールを生産する方法で、基本原理はお酒の作り方と同じ。原料からセルロースを取り出す前処理、酵素を使ってセルロースを糖化、酵母を使った発酵――という3つのプロセスがあるが、それぞれがなお発展途上の段階だ。前処理は日本、酵素は米国、発酵は欧州・日本が得意とされ、それぞれの企業・ベンチャーが開発を競う。

試験プラントを稼働させて量産化への課題をいかに抽出し、克服するか。世界的に中長期のエネルギー戦略の重要性が増すなか、関係者はベンチャー各社の挑戦からしばらく目が離せそうにない。

(佐藤 昌和)

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