スパコン世界一なるか 「京」後継機、1000億円で
文部科学省は8日、専門家会合を開き、理化学研究所のスーパーコンピューター「京」の100倍の性能を持つ次世代機を来春から開発することを正式に決めた。2020年ごろの稼働を目指す。11年に世界最速だった京は3位に後退しており、世界一奪還を狙う。費用は1000億円を超す見通しで、京のように国産技術だけで賄うのかが今後の焦点となる。
1秒間に100京(京は1兆の1万倍)回の計算ができる「エクサ(数の大きさを表す単位で100京のこと)級」のスパコンは、欧米や中国が20年前後の稼働を目指して開発を進めている。文科省は巨額の開発費が必要なスパコンで再び世界一を目指すべきか議論してきた。
最速機は先進国の研究インフラとして欠かせないとの判断から8日の会合では「稼働時期の前倒しも含めて開発を推進すべきだ」と結論づけた。
今後、研究主体や性能を専門家会合で詰めるが、巨額の開発費に見合うだけの効果が得られるのかが問われそう。
京はスパコンの頭脳となるCPU(中央演算処理装置)をはじめ、すべて自前で技術開発したため、約1120億円かかった。京の開発を担った富士通は引き続き専用CPUを開発する方針だ。
しかし、サーバー用CPUや画像処理専用の演算装置など市販の半導体を多数つなぐことで、安価に性能を引き出す手法が注目を集めている。現在世界最速の米オークリッジ国立研究所のスパコンは市販品を採用している。こうした手法なら「数百億円の開発費で済む」とみる専門家もいる。
CPUの開発は信頼性の確保などスパコンの総合力を左右するとされる。日本の半導体各社が事業を縮小する中、国が支援すべきかは専門家の間でも意見が分かれる。
消費電力を抑える技術開発も課題になる。京はフル稼働すると約3万世帯分に相当する1万2000キロワットの電気がいる。今の技術のままだと発電所を新設しなければまかなえない。
エクサ級スパコンは新薬の薬効や副作用を予測したり、自然災害で一つの都市に起こる被害を予測して避難に役立てたりできる。計算能力によって成果が左右されるため、文科省は「世界最速のスパコンを国内に持つ意義はある」と説明する。
ただ、東京工業大学の牧野淳一郎教授は「世界最速の達成にこだわるのではなく、使いこなせるスパコンを目指すべきだ」と指摘する。米中がエクサ級の開発でしのぎを削るのは軍事目的という用途があるから。日本には産業競争力の強化につなげていく戦略が欠かせない。
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