米宇宙軍、デブリ3万個監視 衛星防衛へ国際ルール急ぐ
【ワシントン=中村亮】米宇宙軍の最大の任務は人工衛星を守ることだ。宇宙ごみ(デブリ)や人工衛星など合計で約3万個の物体を監視し、衝突事故を回避している。各国が他国の人工衛星の活動を妨げないことを定める国際ルールの策定も急ぐ。
宇宙軍トップのジョン・レイモンド作戦部長は日本経済新聞の電話インタビューで宇宙の現状をめぐり「一段と混雑してきた」と懸念を示した。各国が経済や安全保障の土台になる人工衛星の打ち上げを拡大。それに伴ってデブリも増え、衝突回避の難度が増す。
混雑はミサイル実験の結果でもある。中国は2007年、ミサイルによる人工衛星の撃墜実験を実施した。米国はこの実験によって3000個以上のデブリが発生したと分析し、現在も監視を続けている。
もう一つの懸念は、ロシアや中国による人工衛星の活動妨害だ。米宇宙軍は20年7月、ロシアが地球周回軌道上の人工衛星から別の衛星に向けて物体を発射する攻撃実験を行ったと批判。ロシアは自国の機器の検査が目的だとして米ロの主張はかみ合わなかった。
バイデン米政権は宇宙の秩序づくりで主導権確保を狙う。オースティン国防長官は7月、米軍高官に「宇宙における責任ある行動の信条」と題する文書を送った。宇宙に長期間残るデブリの発生を抑制し、他国の人工衛星を妨害してしまう事態を念頭に「有害な干渉を避ける」と明記した。宇宙での活動について他国への通告を重視する立場も示した。
レイモンド氏は「パートナー国とともに宇宙領域で安全かつプロフェッショナルな行動について策定を進めている」と強調した。オースティン氏の文書が米政権の目指す国際ルールのたたき台になるとみられる。主要7カ国(G7)は6月の首脳会議で、国連などを舞台に国際ルールの策定を進めていく考えで一致した。
中ロはこれまで宇宙の軍備管理に前向きな姿勢を示しながらも、宇宙への兵器配備の制限を主張してきた。米軍が宇宙にミサイル防衛システムを配備することを阻止する狙いがあるとされる。米国は中ロの提案を拒否し、宇宙の軍縮協議は停滞してきた。宇宙での衝突リスクが高まるなかで、国際協調にはハードルがある。
レイモンド氏は空軍で宇宙分野を中心に30年以上のキャリアを積んできた。10年12月から日本の米軍横田基地で第5空軍の副司令官を務め、11年の東日本大震災後には米軍による被災地支援「トモダチ作戦」にも携わった。
インタビューでは、トモダチ作戦について「人道支援や災害支援におけるパートナーシップの価値をまさに初めて目の当たりにした」と振り返った。
宇宙領域に関する国際連携が陸海空軍などと比べて遅れてきたと指摘し「トモダチ作戦での経験が宇宙でも国際連携を高める必要があると考えるきっかけになった」と話した。

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