法人税率下げても「投資・賃金増えず」 政府税調で議論
政府の税制調査会(首相の諮問機関)は19日、EBPM(証拠に基づく政策立案)を活用して税制の効果を検証する専門家会合の2回目を開いた。財務省は法人税率が2010年代から引き下げられてきたにもかかわらず、国内の設備投資や賃金は増えていないとの分析を示した。
中小企業向けの税率を軽減する特例措置についても議論した。投資や研究開発を促す制度設計にはなっておらず、所得の大きな中小企業にも一律に適用している。政府内には一律の適用を見直す案があり、2025年度の税制改正でも論点の一つとなる。
法人税率は企業の競争力強化や投資の拡大を狙った改革の一環として11年度の税制改正から段階的に引き下げてきた。この改正前は30.0%で、16年度の改正以降は23.2%で据え置いている。
国と地方の実効税率は12年度の37%から18年度には29.74%まで下がった。企業誘致を狙った法人税率下げの国際競争が生じたことが背景にある。足元では国際的な協調で一段の引き下げに歯止めをかける機運が出ている。
財務省によると、18年度の国内の設備投資額は07年度に比べて10%増にとどまる。海外投資の37.5%増と比べて低い。同省は「国内への投資の増加を期待された大企業の動きが鈍い」と指摘した。
賃金も低迷が続く。18年の平均賃金は07年比でドイツは14.4%増、米国で8.7%増に達する一方、日本は1.5%減少した。19日は委員から「法人税率引き下げより対象を絞った投資減税のほうが有効だ」との声が上がった。
会合に参加した経団連は「日本の法人実効税率は主要国のなかでは高い」と指摘した。米国など諸外国の今後の動きも勘案して判断していくべきだと訴えた。財務省によると法人実効税率は1月時点で米国が27.98%、英国が25%と日本を下回る。
19日は中小企業向け税制の有効性も話し合った。中小企業の所得はリーマン・ショック後の09年度に9.6兆円だったが、22年度には31兆円と3倍以上に伸びた。中小規模に減資する企業が年1000社に達するなど、優遇措置を狙った税逃れが多発している。
中小企業については、所得のうち800万円以下の金額に適用する法人税率を19%に軽減している。さらにリーマン・ショック後からは期限付きで15%まで引き下げる特例も講じており、延長を続けている。
2025年度の税制改正では、この特例を含め期限を迎える税制措置を延長するかが焦点になる。19日は中小企業庁が、企業の財務基盤を強化する導入目的を達成していないと説明した。委員からは投資を促す税制措置について「企業の行動変容を促す仕組みとして不十分だ」「延長するにしてもハードルを上げないといけない」といった発言があった。
専門家会合は大阪大学の赤井伸郎教授が座長を務める。19日の会合は経団連と日本商工会議所がオブザーバーとして参加した。