FRBは市場が知らぬ何かを把握しているのか
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長にとっては、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)直前という、なんとも間が悪いタイミングで、米地銀ファースト・リパブリック・バンクの危機が表面化した。事前想定通りに利上げを決定すれば、市場の安定よりインフレ重視かとの正解の無い難問を投げかけられよう。
かといって市場の危機感を鎮めるために、今回利上げを見送れば、FRBは我々が知らない何かを把握しているのではないかと、市場が疑心暗鬼を募らせる可能性がある。
さらに、ウォール街が危惧するのは、金融不安が地銀に限定されるか、という問題だ。たたけばほこりが出るリスクを欧州市場で予告編のごとく見せつけられてきたからだ。
まず昨年、財政不安に端を発する英国債の投げ売りが生じたとき、英国年金基金がデリバティブ(金融派生商品)にレバレッジをかけて投資していたことが発覚。
さらに、クレディ・スイス・グループが英金融会社グリーンシル・キャピタル経由で「サプライチェーンファイナンス」という新商法に出資して巨額の損失を計上したことが、結局、同銀行の命取りの一つとなった件。
一般的に、未公開企業への直接投資を手掛け「プライベートキャピタル」と呼ばれる金融会社は、銀行ライセンスを持たず、金融規制も相対的に緩い。シャドーバンク(影の銀行)ともいわれる。
プライベートキャピタルに資金を投じる顧客投資家は数年単位で出資するので「取り付け騒動」は起きない。ただし最終的な投資先はサプライチェーン・ファイナンスのごとき、高リスクな分野に及びがちだ。ゼロ金利時代には、画期的な新ビジネスともてはやされたが、金利上昇とともに化けの皮がはがれる事例がいまだ市場のどこかに埋もれているやもしれぬ。疑心暗鬼になりやすい地合いといえる。
今回の米国銀行不安は、破綻という第1波から、その後遺症ともいえるクレジット・クランチ(信用収縮)という第2波に移行しつつある。市場の流動性が縮小すると、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の名言のとおり「誰が裸で泳いでいたかあらわになる」ことになる。
現時点では、FRBも含め金融監督部門が、その「誰か」を正確には特定出来ていない。リスクが見えない状況は市場が最も嫌うところだ。
このような市場環境で、FOMCでは利上げが議論される。恒例の記者会見では、金融不安と利上げの関連について、質問が集中しそうだ。
最近は「即興の達人」とやゆされるパウエル氏の受け答えが、思わぬ市場の反応を誘発するリスクには要注意だ。
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