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見えてきたAppleのAI独自路線 M&Aで自社を補完

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CBINSIGHTS
市場から高い注目を集める巨大テックの人工知能(AI)戦略だが、中でもこれまで見えにくかった米アップルへの注目度は高い。アップルでは2023年以降M&A(合併・買収)を加速し、スタートアップ企業を6社買収した。自社AIと大規模言語モデル(LLM)を組み合わせることで盤石の体制を築けるか。独自の戦略をCBインサイツが分析した。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

アップルの最近の動きは、AIの開発に対する同社独自のアプローチを示している。

同社は米グーグルや米メタなど他の巨大テックとは違い、自社のモデル開発活動についてほとんど明らかにしていなかった。デバイス上でのユーザー体験(UX)を重視した結果、モデルは小型になり、米オープンAIのような提携パートナーの外部のLLMを活用して生成AIシステムを完成させている。

CBインサイツのデータに基づき、アップルのAI戦略における3大優先事項をまとめた。

アプリ帝国にまたがるAIエージェントの開発を目指している:オープンAIとの提携により音声AI「Siri(シリ)」の強化を図り、ユーザーの指示を受けてAIが操作を担う「エージェント型AI」に参入した。

生成AIモデルに対するハイブリッドでインビジブル(目に見えない)なアプローチ:プライバシーを保てる小規模言語モデル(SLM)と半導体の自社開発に力を注ぐ一方、LLMは外部委託して開発費を抑えている。直感的でAIの存在を感じさせないようにするのがその狙いだ。

空間コンピューティングと拡張現実(AR)が次のフロンティア:アップルのAI戦略はスマートフォンやコンピューターにとどまらない。AR、マシンビジョン(画像検査・解析技術)、画像認識分野の企業の買収により、空間コンピューティングの取り組みを前進させている。

以下では、アップルの2023年以降のテック分野の買収と提携を図に示し、こうした関係と上記の戦略の関連を分析する。

アプリ帝国にまたがるAIエージェントの開発

アップルにとって、全ての道はUXに回帰する。UXの次の大きな一手は6月に発表した生成AIシステム「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」で、現在はベータ版をテストしている。

インテリジェンスは日常生活で使われ、文章の校正やToDoリストの作成などのタスクでユーザーを導く。AIが複数のアプリにまたがって裏で操作を担えるようにするのが目標だ。

アップルのAIに対するこうしたアプローチは、生成AIを業務支援機能「コパイロット」や全く別のユーザーインターフェース(UI)など、専用UIで提供する傾向にある他の多くのテック企業とは一線を画している。

アップルにとって、AIはあくまでUXを充実させるための手段であり、その逆ではない。ユーザーはAIを使うために、別のアプリやインターフェースにアクセスする必要はない。AIが前面に出ないため、特定のLLMモデルや技術の制約も受けない。

アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は24年4〜6月期の決算説明会でアップルインテリジェンスについてこう表現した。

「当社はメモやメール、メッセージなど、日々使われているほぼ全てのアプリについて真剣に考えてきた。(中略)それがアップルインテリジェンスをユーザーにとって自然な形で提供することにつながった」

AIで機能を強化するのはアプリだけではない。オープンAIとの提携により、シリに同社の対話型AI「Chat(チャット)GPT」も搭載した。シリは「iOS 18」のアプリでコパイロットとして使えるようになる。

シリは当面、iOS 18搭載デバイスで問い合わせに答え、文章の内容を理解し、画像を生成する。こうした直接的な機能の提供により、シリは生成AIツールやGPTインターフェースの出現で身近になったタイプの音声アシスタントとして位置づけられるようになるだろう。

もっとも、アップルはいずれシリへの投資を足がかりに、ユーザーに代わって一連のタスクを処理し、同社のデバイスの他のエージェントやアプリと連携できるエージェント型AIを開発する可能性がある。

AIは急速にエージェント型、さらにはマルチエージェント型のワークフローに移行するだろう。投資家は22年以降、法人向けAIエージェントとコパイロットの分野に約40億ドルをつぎ込んでおり、この分野の半数以上はアーリーステージ(初期)企業だ。このため、この分野は大きく成長する可能性がある。アップルはリソースが豊富で、広範な技術を手掛け、使い勝手の良いAIに力を入れているため、AIエージェントの消費者向けアプリケーション開発の最前線に立つだろう。

生成AIに対するハイブリッドでインビジブルなアプローチ

スマートフォン「iPhone」などのデバイスに真に有用なAIを組み込むには、高度な技術革新が必要になる。そこで、アップルはエッジデバイスで効率的に動作する軽量の基盤モデル「SLM」の開発に力を入れている。

4月にはオンデバイス向けの小規模言語モデル群「オープンELM(オープンソースの効率的な言語モデル)」を発表した。さらに6月には、アップルインテリジェンスを披露し、デバイス上の多くのタスクを実行する手段としてSLMを強調した。こうしたオンデバイスSLMで実行できない複雑な処理は、自社製半導体を搭載したサーバーで構成するクラウド「Private Compute Cloud」のLLMでサポートする。

SLMの利用はセキュリティー面でもメリットがある。アップルインテリジェンスはプライベートクラウドで実行され、ユーザーデータを保存しないため、LLMのように大規模なサイバー攻撃にさらされずに済む。アップルはプライバシーで先行しているという事実は、消費者市場で有利に働くだろう。

計算力の内製化もプライバシー対策の一環になっている。アップルはプライベートなクラウドコンピューティングだけでなく、iPhoneやパソコン「Mac」の半導体も米インテル製や米クアルコム製から自社製の「アップルシリコン」に切り替えている。AIインフラの内製化により、サイバー攻撃をコントロールしやすくなるだろう。

さらに、自社のAI機能を外部のLLMで補っている。

アップルはオープンAIと提携し、チャットGPTをシリに搭載した。実現には至らなかったが、メタの生成AIをiPhoneに搭載する協議も進めていた。さらに、AIモデルの学習用に米エヌビディア製ではなく米グーグルのAI半導体「TPU」を選んだ。24年の世界開発者会議(WWDC)では、将来的にグーグルの生成AI「Gemini(ジェミニ)」など追加のLLMを搭載する可能性もほのめかした。

アップルはこうした提携アプローチにより、大規模AIモデルの維持と学習にかかるコストを回避しつつ、ユーザーが望む機能(アプリを切り替えたり、別のサービスを契約したりすることなく最先端のAIモデルを使える機能)を提供できる。

空間コンピューティングとARが次のフロンティア

アップルはAIをiPhoneなどの中核デバイスに搭載するだけでなく、デジタル画像や空間コンピューティング(周囲とリアルタイムでやり取りできる機能を提供する技術)向けのAIにも資金を投じている。

23年1月以降に買収したスタートアップ6社のうち5社は、デジタル動画圧縮を手掛ける米ウェーブワン(WaveOne)やマシンビジョンの仏Datakalabなど、AR、マシンビジョン、画像認識の分野の企業だった。さらに、米シャッターストック(Shutterstock)と提携し、同社の画像を使ってAIモデルを学習させている。

工場業務の最適化にも目を向け、この1年で部品検査の質を向上させるダーウィンAI(DarwinAI、カナダ)と、工場の作業員の動きをデジタル化するプラットフォームを手掛ける米ドリシュティ・テクノロジーズ(Drishti Technologies)を買収している。

さらに、24年1〜3月期のゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Vision Pro(ビジョンプロ)」発売に先立つ23年4〜6月期には、AR技術とHMDを手掛ける米ミラ(Mira)を買収した。ビジョンプロの投入は消費者向けとしては確かに賭けかもしれないが、そのAR機能の一部をiPhoneやMacのカメラに拡張する可能性は大いにある。

一方、空間コンピューティングには多くの法人向け用途があり、アップルはこの分野で大きく前進している。同社の24年4〜6月期の決算説明会によると、フォーチュン100社の半数以上がビジョンプロを試験的に購入している。独ルフトハンザ航空や米ボストン小児病院はその一部だ。

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