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香川真司「欧州に行き、サッカーがさらに面白くなった」

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昨夏、サッカーJリーグのC大阪からドイツ・ブンデスリーガの古豪ドルトムントに移籍した香川真司(22)は前半戦の17試合で8ゴールを重ねてサポーターの心をつかんだ。しかし、今年1月のアジア・カップで右足小指の付け根を骨折。後半戦は、チームが9シーズンぶり7度目の優勝へひた走る中で、プレーできない悔しさを味わった。起伏の激しいシーズンを終えたいま、日本代表MFはどんな思いでオフを過ごしているのか。心中を語ってもらった。

もっと早く復帰したい気持ちが強かった

――アジアカップの準決勝で骨折した右足小指付け根は日本で手術し、リハビリに励んだ。復帰へのプランについてドルトムントはどういう考え方だったのか。

「(C大阪時代に続いて)2度目の骨折ということもあったので、クラブは無理をさせないという方針だった。復帰は来シーズンでいいという考えだった。それは正しい判断だと思ったけれど、僕としてはもっと早く復帰したいという気持ちが強かった。最後の3試合は出るという意気込みだった」

「その気持ちはチームのトレーナーやドクターに伝えて調整していたし、クロップ監督にも話した。しかし、監督は早く復帰してくれたらうれしいけれど、無理はさせたくないと言っていた」

「ドイツのスタッフは故障者の復帰に関して非常に慎重だという印象を受けた。とにかく再発しないようにと考える。今回の僕のケガの場合、日本では復帰まで3カ月という感じだが、ドイツでは4~5カ月と考えているようだった」

気持ちのコントロールは難しかった

――長い間、別メニューで調整しているのはストレスがたまる。

「横でチームメートが楽しそうにトレーニングしているし、サポーターとふれ合っている。8万人の観衆の前で試合をしているのがうらやましかった。そういう中での気持ちのコントロールは難しかった」

――チームは4月30日に優勝を決め、5月14日の最終戦の終了間際に、ついに戦線復帰を果たした。

「ベンチ入りすることは前の週から言われていた。優勝に向けて一緒に戦った僕に対して、気を使ってくれたのかもしれない」

ドルトムントに巡り合えて良かった

――移籍1年目はどういうシーズンだった?

「最高のときと最悪のときを経験した。上も見たし、下も見た。ある意味では密度の濃いシーズンだったといえる。半シーズンはチームも僕も調子が良くて、結果も出せた。そのままケガをせずプレーしていたら、自分にとって最高のシーズンになっていたと思う。手応えがあっただけに、ケガをしたことが悔しい」

――ドイツに移籍して、すんなりチームにフィットした要因は。

「ドルトムントというチームに巡り合えて良かったと心の底から思っている。同じような年齢の選手が多いということも、豊富な運動量をもとにガンガン仕掛けていくサッカーを志向していることも、僕にとってプラスに働いた。だからフィットできた。ドイツには、あれだけ仕掛けていくチームはほかにない」

クロップ監督は選手のことをよく見ている

――影響を受けた選手は。

「レアル・マドリード(スペイン)に移籍するシャヒンはチームの中で大きな影響力を持っていた。ピッチの内でも外でもリーダーだということは、加入してすぐ感じた。僕にも移籍当初から、よく声を掛けてくれた。僕と同じ22歳なのに、周りがよく見える人間で、雰囲気のある選手だ」

――クロップ監督はどういう指導者?

「練習中に選手のことをよく見ている。選手が最高の気持ちでピッチに立てるように、奮い立たせてくれる。モチベーションを高めるのがうまい。若いチームが確実に勝ち点を積み重ねることができたのは、そのおかげだと思う」

「シーズン中に『優勝』という言葉を決して口にしなかったし、選手にも控えさせた。メディアは『優勝』と騒いでいるけれど、気にせず、目の前の試合に集中しなくてはいけないと言い続けた。だから選手たちに、おごりが生まれなかった」

南米選手権の辞退は仕方がない

「試合前のミーティングでは、もちろん相手の分析について話をするけれど、それほど細かくはない。自分たちのサッカーをいかにするかにこだわっていて、ミーティングもそのためのものだった。相手に合わせるサッカーは一度もしなかった。攻撃に関して、こう動きなさいという指示はまったくせず、個人の判断に任せている」

――東日本大震災の影響で日本代表は南米選手権の出場を辞退した。香川選手のキリンカップへの招集も見送られた。

「南米選手権はふだん、できない経験を積める大会なので魅力を感じていた。しかし、東日本大震災で選手の招集が難しくなったのだから、辞退は仕方がない。ドルトムントからは南米選手権にもキリンカップにも出さないと言われた。確かに、故障あけなのでリスクが大きすぎる」

「日本に帰ってくる前にクロップ監督から、こう言われた。『1つだけ約束を守ってほしい。日本代表には行かないでくれ。体を休めることが大事だ』と」

被災地の子どもたちのために何かしたい

――中学・高校時代を過ごした仙台が震災で大きな被害を受けた。シーズン閉幕後、宮城へ足を運んだ。

「仙台は5年半を過ごした土地なので、サッカーを通して被災地の子どもたちのために何かしたいと考えていた。石巻と亘理でサッカー教室を開いたり、僕が育った仙台のFCみやぎバルセロナでも子どもたちと触れ合ったりした」

「家が流されてしまった街を目の当たりにして、津波の大きさを実感した。津波で流されて、ぶつかった車が3台いっしょにペシャンコになって学校の廊下に残っていた。子どもたちが目にしたものを想像すると……」

「家をなくした子もいたのに、僕が行っただけで喜んでくれた。その笑顔が印象に残った。苦しい状況だというのに、サッカーをしている間は笑顔だった。サッカーには人を元気にする力があるのだと感じた。今後も時間があるときには、こうしたチャリティー活動を続けていきたい」

「ドイツの人たちも日本のことをとても心配してくれている。ただ、福島の原発事故についての報道がおおげさで、あいまいな部分もあるので、日本全体が壊滅的なダメージを受けたと思っている人が多い。チェルノブイリの原発事故の影響で、欧州の人たちは放射線に対して敏感で、おまえも日本には帰れないなと言われた」

キャンプに向けてしっかり準備

――2012年夏に欧州選手権があるため、欧州各国リーグの来季の開幕は前倒しされる。

「ブンデスリーガの開幕は8月5日。ドルトムントは6月29日に始動し、その後、1週間ほど短いキャンプに出る。監督からオフの間にこうしなさいという注文はまったくなかった。そこは自己責任なのだと思う」

「去年のキャンプは初日から非常にハードだった。今年は期間が短いので、(1日にこなす)質も量もさらに厳しいものになると思う。南米にはオフはまったくサッカーをしないという選手もいるけれど、僕にはそれでは難しい。キャンプでのトレーニングにしっかりついていけるように準備をしておかないと」

「ドルトムントのサッカーの生命線は運動量にある。シーズンを通して安定していたのは豊富な運動量があったから。シーズン中は中3日で試合が続くことが多いので、走るトレーニングはできない。やはり、シーズン前のキャンプが大事」

――来季の個人的な目標は。

「ブンデスリーガ、欧州チャンピオンズリーグ、日本代表のすべてで昨季以上の結果を残さなくてはいけない。結果というのはゴールのこと。攻撃の選手はそこで評価されるし、ゴールすることで信頼を得る。昨季の僕もそうだった」

毎シーズンが勝負、厳しい争いに

「去年は(移籍したばかりの)僕に対する周囲の期待はゼロだったけれど、今年はサポーターにも結果を出して当たり前と思われている。期待もプレッシャーも大きい」

「ブンデスリーガの王者なので、来季はマークされる。他のチームは必死で立ち向かってくる。しっかりした気持ち、しっかりしたコンディションでシーズンに入って行かなくてはならない。チャンピオンズリーグというタフでハードルの高い大会も待っている」

「欧州のクラブは選手の入れ替わりが激しい。新たに移籍でいい選手が入ってきて、サバイバルが始まる。またゼロからのスタートになる。キャンプで最初から飛ばしていかないと、ベンチに追いやられる可能性がある」

「毎シーズンが勝負。自分の立場はまったく保証されていない。軽い気持ちで臨んでいたら、足をすくわれる。厳しい争いになるということを頭に入れておかなくてはいけない。何年も欧州で戦っている選手はそれがわかっている」

いろんな刺激があって、いろんな夢がある

――昨季、活躍できたからといって、来季もうまくいくとは限らない。

「いいときがずっと続くわけではない。ドルトムントに移籍してから、僕は批判されたことがない。しかし、そういうことは起こりうる。批判されるときが来るかもしれない。そうなったときも自分をコントロールしていかなくてはならない」

――欧州のサッカーを経験して、何か変わった点はあるか。

「サッカーがさらに面白くなった。欧州には素晴らしいサッカーの文化がある。長友がビッグクラブのインテル・ミラノ(イタリア)に移籍したように、活躍しだいで、どこにでも行ける。素晴らしい雰囲気の中でサッカーができる。いろんな刺激があって、いろんな夢がある。8万人に囲まれてサッカーをするのは、たまらないですよ。日本の若い選手はぜひ欧州に行ってほしい」

(聞き手は編集委員 吉田誠一)

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