ランニングの疲労回復、入念なストレッチ忘れずに
ランニングインストラクター 斉藤太郎
走り出す前に体操で体をほぐす方は多いですが、走り終えてからのケアがおろそかになってはいませんか? 疲れを残さないためには、筋肉のアフターケアが大切。ランニング中は激しく筋肉を伸縮させるため、体がストレッチングを求めています。
■柔らかい体に変身するチャンス
腿(もも)裏、ふくらはぎ、骨盤回り、背筋……。酷使した部位は放っておくと萎縮してガチガチな体になることも。練習を振り返りながら深い呼吸で筋肉をじっくり伸ばしてあげることで、疲労回復が促進されます。
「自分は体が固い」というコンプレックスを持っている方、これから夏にかけての気温が高くなる季節は体質を改善するチャンスです。ランニング後、入浴後のストレッチを習慣化させましょう。毎日続けていれば2週間で効果を実感できるはずです。
ランニング後におすすめのストレッチを紹介します。
まず腿の裏からお尻にかけての筋肉を緩める開脚前屈。この筋肉が突っ張っていると骨盤が後ろに引っ張られて後傾します。緩めることで骨盤が前傾した正しい姿勢になります。左右の足を真っすぐに大きく開き、つま先方向へ前屈して片足ずつ伸ばします。
前へ体を倒そうとするのではなく、おなかの力を抜いて骨盤から体を折りたたむようなイメージでするといいでしょう(写真1)。左右それぞれ20~30秒、じっくり伸ばします。
この前屈の姿勢を維持したまま、手のひらを地面に近づけた状態で右へ左へと大きく体をスイングさせます(写真2)。腕だけでなく体幹を利用して大きな弧を描いてください。左右8往復が目安です。
様々な角度から骨盤回りの筋肉を緩めることができます。このような動的ストレッチをアフリカ勢のランナーたちがウオームアップで取り入れているのを見たことがあります。
次に股関節を緩める肩入れ(写真3)。左右に大きく足を開いて腰を落とし、膝を約90度に曲げます。肘を伸ばしたまま両手を膝に置き、(1)背筋を伸ばして正面を向きます。(2)(3)背骨を中心に肩を入れてひねりましょう。左右それぞれ20秒を2セットが目安です。
(4)正面の姿勢に戻り、膝の上についた両肘を使って両方の腿を外側へ開くようにして20秒間伸ばします。
このようなストレッチを取り入れることをはじめとして、ケガすることなく体を良い状態に保つため、ランニングの「前・中・後」に気を付けたいことをアドバイスさせてもらいます。
トレーニング前にはケガをしないためにと、体操だけしている方が多いと思います。体操すらせずにいきなり走り出す方もいるので、体操を取り入れているだけでも良いと言えます。
しかしながら、少しでも良いフォームで走りたいという方や、ケガなく走りたいという方には「歩く→体操・エクササイズ→軽いジョギング→ストレッチ→走る」の手順をおすすめします。
■血流促し、筋肉を温めてほぐす
はじめにすることは歩くことです。歩くことで心拍数が上昇します。血流が促されるので体の芯の方から筋肉が温まってきます。練習コースまで歩いて行けば、この手順を踏むことになるでしょう。
温まったところで、体操で筋肉と関節をほぐします。大切な筋肉を走る前に目覚めさせるためには、体幹を活性化させるエクササイズをしましょう。この連載でこれまで紹介してきた以下のエクササイズを取り入れてください。(カッコ内は紹介した回のタイトル。クリックすれば、その回のページが表示されます)
○骨盤の上げ下げエクササイズ(走りのパワーのカギは骨盤、しなやかに動かそう)
○体の軸を整えるエクササイズ(美しいランニングは美しい立ち姿から)
○股関節を柔軟にするストレッチ(ランナーの初めの一歩、ウオーキングで足腰づくり)
○肩を柔軟にするストレッチ(ガチガチ肩はランナーの重荷、ストレッチで柔軟に)
さらに体を温めるために軽いジョギングを。しっとりと汗をかいてくる程度が目安です。
細部まで筋肉が温まりほぐれてきたところでストレッチ。筋肉を緩めます。冒頭で紹介した開脚前屈と肩入れのほか、体側ストレッチ(「忙しくて走れないときも…仕事合間にエクササイズ」で紹介)などもおすすめです。
こうした手順を踏むことで、柔らかくて大きなフォームで練習に臨むことができます。手順を怠ると大きな筋肉にはスイッチが入らないまま小さな筋肉に頼ってしまったり、筋肉の表層だけを使って走ってしまったりします。
そのため、うまくスピードに乗れないばかりでなく、疲れやすく、その疲労が後まで残りやすくなります。
■脂肪燃焼には薄着がベター
ランニング中は薄着が好ましいです。暖かくて心地よく走れる季節にもかかわらず、練習後に体重を量るのを楽しみに、たくさん着込んで汗を多く流すことを考えてランニングをする人がたまにいます。
たとえ一時的に体重が落ちたとしても、それは流れた汗(水分)で減っただけです。脂肪が落ちたわけではありません。失った水分は速やかに補う必要があります。むしろ薄着で、良い動きで走ることを心掛ければ脂肪の燃焼も促されます。変な我慢は禁物です。
また、小物入れにポーチやリュックは便利ですが、1時間程度のランニングでしたら、手ぶらが理想です。体に着けるツールはなるべく省きましょう。体本来の動きを大切にしてバランスを保って走ってください。
体中のあらゆるセンサーを研ぎ澄まして、風を感じ、景色を眺め、季節の音を聴きながらランニングに集中してください。
上り坂やペースアップ時には呼吸が上がることもありますが、そんなことも含めて「走るって気持ちいい」といった爽快感が得られるはずです。
■水分と栄養、速やかに補給
トレーニングの終わりは次のスタート。練習の終了時点から、既に次への準備が始まっています。
ランニングで失ったものは速やかに補ってください。走った後に空腹がしばらく続く状態は好ましくありません。「運動-栄養補給-休養」のサイクルが回らなくなります。
ランニングで使った部位の修復がスムーズに進むためにも、水分と栄養を補給しましょう。果物のジュースや消化の良いものを取ってください。
運動中は足など使った部位の温度が上昇します。そして終了後もしばらく火照った状態が続きます。この火照った状態のままにしておくことが、だるさや変な疲労感を誘発するようです。
練習後は速やかに元通りの温度に戻すことが疲れを残さないポイント。シャワーで冷やしたり濡れたタオルで拭ったりすることで、気化熱を利用して温度を元に近づけてあげましょう。
私たちのクラブの本拠地、千葉県佐倉市で先月「佐倉マラソン」が開催され、チームの仲間たちとフルマラソンのペースランナーを担当しました。
ペースランナーの任務は「滅私」。42.195キロの道のりをコース地形や天候を考慮した上で理想的な配分で導き、目標達成へのサポートをします。設定通りに走ってゴールしたのですが、日ごろ故障とはあまり縁のない私が、今回は珍しく足を痛めてしまいました。
原因は目印となる風船を帽子につけていたことと、携帯電話を片手に写真を撮りながら走ったことです。風船が受ける風に耐えようとすると、普段とは違った部位に力みが入りました。また携帯を常に握っていたので、左右のバランスが崩れたのだと思います。
今回のポイントでも挙げましたが、走るときは体幹も四肢も極力フリーにして走ってください。スピードを上げるときはなおさらです。
さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、日本サッカー協会の委嘱を受け、レフェリーにも走り方を講習している。2013年5月には国際サッカー連盟(FIFA)キャンプで指導予定。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)など。