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ブラジル代表、W杯優勝へ土台固めた13年

サッカージャーナリスト 沢田啓明

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ワールドカップ(W杯)前年の今年、ブラジル代表の対戦成績は19戦して13勝4分2敗。1試合平均の得点が2.8で失点は0.8と、攻守のバランスもほぼ完璧だった。もしこれがリーグ戦なら、通常ぶっちぎりで優勝する数字だろう。

監督が植え付けた戦い方浸透

内容も良かった。昨年末に監督に指名されたルイスフェリペ・スコラリの最初の試合となった2月のイングランド戦で1-2と敗れ、その後もイタリア、ロシア、イングランドと引き分け。それでも、6月のコンフェデレーションズカップ前最後の強化試合で、近年、ブラジルが大の苦手としてきたフランスに3-0と快勝した。

スコラリ監督は、コンフェデ杯前の2週間余りの合宿を通じて、立ち上がりは高い位置からプレスをかけて相手ボールを奪い、人数をかけ攻めて先制すると、その後はやや引いて強固な守備ブロックを構築し、相手が前がかりになったところでカウンターから追加点を奪う戦い方を植えつけた。

コンフェデ杯が始まると、試合前の国歌斉唱で録音が終わっても観衆と選手がアカペラで最後まで大合唱する"儀式"が自然発生し、それまで代表チームに対して懐疑的だった国民と選手の間に強い一体感が生まれた。

早い時間に先制しペース握る

選手たちはその勢いを駆って試合に突入し、5試合中3試合で前半10分までに先制してペースを握った。このことがイタリア、ウルグアイ、スペインというW杯優勝経験を持つ強豪を下しての制覇につながった。

このアカペラ大合唱は、開催国ならではの"特権"だろう。もし他国がこれを繰り返したら国際サッカー連盟(FIFA)は黙っていないだろうが、ホスト国なら黙認せざるを得ない。この光景は来年のW杯でも繰り返されるはず。ブラジル選手たちは気持ちを極限まで高めて試合に入り、試合開始直後の先制点を狙って相手に襲いかかるに違いない。

選手見極め巧みなチームづくり

指揮官の選手を見極める目とチームづくりの巧みさも光った。

10年W杯の準々決勝オランダ戦でミスをして以来、代表から遠ざかっていたベテランGKジュリオセザール(クイーンズパーク)を復帰させた。ファースト・ボランチに当時バイエルン・ミュンヘンで控えだったルイスグスタボ(現ウォルフスブルク)を抜擢し、CFには運動量は多くないが泥臭く点を取るフレジ(フルミネンセ)を起用するなど、それまで絶対的な存在がいなかったポジションに適材を見いだした。

さらにコンフェデ杯終了後、選手たちに「今後の強化試合も、公式戦のつもりで全力でプレーしてくれ」と言い渡す。レギュラーの中には故障で欠場した選手が多かったのだが、このことを逆に利用して、それぞれのポジションの二番手、三番手の選手を先発起用する。

控えを先発起用、戦力に厚み

この期待に応えてGKジェフェルソン(ボタフォゴ)、右SBマイコン(ローマ)、左SBマックスウェル(パリ・サンジェルマン)、DFダンチ(バイエルン・ミュンヘン)、MFベルナール(シャフタル・ドネツク)らがレギュラーをしのぐほどのプレーを見せ、戦力に厚みを加えた。

コンフェデ杯後、スコラリ監督にインタビューする機会があった。コンフェデ杯の収穫を聞くと、「来年のW杯を戦うチームの土台ができた。また、国民が選手たちの気迫のこもったプレーを見て感動し、熱烈にサポートしてくれたのが大きな力となった」。選手たちを父親のような厳しくも温かいまなざしで見つめており、「このおやじについていけば間違いない」と思わせる包容力がある。

それでも、自国開催のW杯で優勝以外は全く評価されないという状況は決して楽ではないはず。「世界で最も巨大なプレッシャーを背負わされている男ではないかと思うが……」と水を向けたところ、「確かに大変だよ。でも、これまでの長い監督生活でいつも大変なプレッシャーを受けてきたから」とサラリ。泰然自若としており、肝が据わっている。

ネイマール、渡欧しさらに成長

監督が「チームの土台ができた」と語るように、すでに攻守で軸となる選手が定まっている。

攻撃の中心は、ネイマール(バルセロナ)。かつてキング・ペレがまとった栄光の背番号10を継承し、左サイドでチャンスメークを担いながら、自らも積極的にゴールを狙う。明るい性格で、チームのムードメーカーでもある。きゃしゃに見えるが体が強く、ほとんど故障をしないのも大きな強みだ。欧州へ渡ってから、さらに成長している。

守備の要は、キャプテンのCBチアゴシウバ(パリ・サンジェルマン)。的確な状況判断でピンチの芽を摘み取り、さらに精度の高いパスで攻撃の起点となる。

この2人を、攻撃ではMFオスカル(チェルシー)ら、守備ではCBダビドルイス(チェルシー)、ボランチのルイスグスタボらがサポートする。

懸念材料はCFと2列目右サイド

懸念材料がないわけではない。CFはコンフェデ杯ではフレジが務めたが、その後、筋肉系の故障が多く、今年後半はほとんどプレーできなかった。W杯をベストコンディションで迎えることができるかどうか、不安が残る。控えのジョー(アトレチコ・ミネイロ)も、今年後半はやや調子を落としていた。

2列目右サイドのポジションも不確定だ。コンフェデ杯ではフッキ(ゼニト)がプレーしたが、無得点。その後、若手のベルナールが急成長しており、激しいポジション争いが続いている。

代表への批判、影を潜める

ただし、その他のポジションは高いレベルの選手が2人以上おり、まず心配はいらない。監督も「W杯に出場できる力量を備えた選手が、すでに25人いる。(W杯出場登録メンバーは23人だから)2人カットしなければならないが、これが難しい」とぜいたくな悩みを打ち明けている。

ブラジルは代表チームに対して厳しすぎるくらい厳しい国だ。しかし、今年6月以降、代表への批判は全く聞こえてこない。文句をつけたくても、文句のつけようがなかった、という感じ。選手起用に関しても、これといった異論はない。これほどの無風状態はこの国では極めて珍しく、少し気味が悪いくらいだ。

これからが本当の闘い

今後は来年3月5日に南アフリカと強化試合を行った後、5月7日にW杯出場登録メンバーを発表する。そして、5月下旬からリオデジャネイロ郊外で約2週間の合宿を張り、W杯に臨む。

今年に関しては、チームづくりがほぼ理想的な流れで進行した。仮に明日、W杯が行われても、ベスト4には進めるだろう。ただし、ブラジルが目指すのは優勝だけ。ベスト4では大失敗なのだ。

実際に優勝カップを掲げるまで、コーチングスタッフと選手は絶対に気を抜けない。ブラジル代表にとって、本当の闘いはこれから始まる。

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