記述形式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 03:37 UTC 版)
本書は浄土宗の勧化本の形をとっているが、浄土宗は除霊の加持祈祷を異端行為としており、祐天は出版当時の元禄時代に宗門から離れて除霊などしていたので、宗門の正規の祐天伝にこのような事蹟は記載されていない。本書を宗門の所化僧が公然と執筆、流布し、勧化本として説法に用いた結果宗門の拡大に結び付いたとは考えにくく、正規の浄土宗門ではない祐天周辺の教団、さらに祐天人気が取り込んだその外側の一般大衆や幕府勢力をも対象とした出版だったと見られるが、祐天が浄土宗檀林の住職になってからは、本書の扱いも変化したと考えられる。記述形式としては、題名の通り「聞書き」即ちルポルタージュであって、著者が実際に見たことではないが、この事件にかかわった祐天上人や村人から直接聞いた実話とされ、伝奇伝承の話ではない。また死霊の顕現は菊の言動を通して語られるに限られ、その姿は菊の夢や幻覚中でのみ描かれ、祐天をはじめ他の登場人物の耳目には一切触れないなど、憑依された菊の異常な言動という現実的描写のみによる実話という形に厳格に徹して、幽霊や妖怪変化が登場するいわゆる怪談奇談とは一線を画している。助が成仏する時、小児の姿が仄見え、あたりが金色の光で包まれたという奇蹟のクライマックスシーンでも、「日もくれ方の事」と夕映えの光でそう見えたという現実的な説明が添えてある。 本書は、本文を上下巻各六段に区切り、各段の冒頭でそれまでのいきさつに触れたり一応の完結を見たりと、連続ラジオドラマ風の構成が組まれている。さらに文章は句点を多用して短く区切り、要所に七五調の語調を取り入れるなど、後に翻案される浄瑠璃にも通じる読み語りを意識した書き方で、これは本書が単に出版販売のみならず、読み聞かせによる非識字層までの流布をも意図しているプロパガンダ出版物で、その狙いは、古今犬著聞集から大幅に潤色された部分で端的に示されるように、浄土宗の勧化、説法の形を借りて、浄土宗門と一般大衆の両方に対する祐天の評価、人気の向上にあると見られる。さらに本書の内容が、妻殺し、子殺しに対する報いであることから、出版と同時期に発布された「捨て子禁止令」など、戦国時代以来の殺伐とした世相を改善しようとした五代将軍綱吉下の幕政とも協調したものではないかともみられる。先の日本霊異記の説話では因果の理ゆえに障害を持った子の遺棄を正当化する内容だったが、本書ではそれを非とし祐天は子の身の上に涙しているのも、それ以前の因果話と趣旨を異にしている。浄土宗門では異端扱いであった祐天が、五代将軍綱吉と生母桂昌院、六代将軍家宣と正室天英院、側室月光院の信任を得て後に大僧正まで上り詰めたことから、祐天と幕府との深い協調関係が窺われる。
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