総合商社の豊田通商は2024年4月、お客さまへの提供価値を表す本部名称に変更し、ミッション・オリエンテッドな組織体制へ再編した。旧・繊維事業部は「サステナブルファッション部」に名称変更。サステナビリティの追求をビジネスの根幹に据え、“豊通らしい”環境や社会に配慮した唯一無二の事業を創り上げることにまい進している。豊田通商が描く繊維・ファッション領域のサステナブルなビジネスとは何か、サステナブルファッション部プランニング&ディベロップメントグループに所属する鬼形智英(課長補)に聞く。
サーキュラーエコノミー
プロバイダーとして
脱炭素社会の実現へ
繊維領域におけるサステナビリティの優先課題は、大きく3つ。脱炭素、資源循環、人権尊重だ。
脱炭素においては、全社としてGHG排出量(Scope 1,2)を、30年までに19年比で50%削減し、50年にカーボンニュートラルとする目標を策定。繊維関連事業では、電気使用によるGHG排出量が占める割合が高く、国内海外の連結子会社で順次再生可能エネルギーへの切り替えや省エネの取り組みなどを進めている。
さらに全社で、脱炭素社会の実現に向けて30年までの間に2兆円規模の投資を計画。強みを持つ事業領域における積極的な投資と、具体的に計画を立案し実行することで、GHG削減に資する事業を拡大し、世界の脱炭素社会への移行に貢献する。
「カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーは深く連結している。最終的な目的である脱炭素を循環型の仕組みを通じて実現したい。そのために必要な機能・サービス・商品の開発を積極的に進めていく」と鬼形課長補は語る。その具体例が繊維・ファッション領域におけるサーキュラーエコノミー推進プロジェクト「パッチワークス(PATCHWORKS)」だ。23年4月に本格始動した同プロジェクトは、衣料品や繊維廃材の再資源化促進のため、国内外のパートナー企業と提携し生産から販売、リユースやリサイクルまでをつなぐサーキュラーエコノミーシステムを構築することに取り組んでいる。
現在は、縫製工場から出る裁断くずや衣料品を回収・選別・再資源化するリバースサプライチェーン(RSC)領域の事業開発に注力している。「使用済みの衣料品リサイクルは、インフラやオペレーション、技術が未成熟であり、発展途上である。回収したけれど行き先がないという事態も起きている。私たちに期待されていることは、長年培ってきたモノづくりの知見を活かした繊維リサイクルの出口開発であり、それを実現するためのRSC全体のコーディネイトなのだと実感している」とし、主にナイロン、ポリエステル、コットンの主要3素材において、実態に向き合いながら着実に繊維to繊維リサイクルの事業化を進める。
米ブレオと協業し
漁網のリサイクルナイロン
「ネットプラス」を普及
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ナイロンでは、廃棄漁網由来のリサイクルナイロン素材ブランド「ネットプラス(NetPlus)」を保有・運営する米・ブレオに出資する。「ネットプラス」は、主に南米の漁業者から廃棄される漁網を直接回収するトレーサブルなサプライチェーンが特徴の一つ。「漁網を適切な価格で漁業者から購入することや、得られた収益の一部を地域社会へ還元するなど、単なるリサイクル繊維というだけではなく、社会的なインパクトがある」。現在は、「ネットプラス」を使用した生地をアパレル用途に販売しているが、産業資材向けなどの用途にも販路を拡大する計画だ。
「漁網リサイクルは、トレーサビリティーや地域コミュニティーへの貢献などを通じて、プロジェクト全体としての提供価値を最大化する取り組みだと考えている。消費・使用体験までを含めたバリューチェーン全体で好循環を生み出すことが重要だ。これは漁網やナイロンだけではなく、衣服や他の繊維にも応用できるだろう。また、工場から出る廃棄繊維を一元管理できるようなデジタルプラットフォームを持っている海外のベンチャー企業も出てきている。そのような企業とのパートナーシップも通じて、RSCの可視化を進めることで、お客さまに安心感と臨場感の両方をお届けできるのでは」と見通す。
ポリエステルにおいては、パートナー企業と協働し、ケミカルリサイクルプロジェクトの事業化を加速する。「グローバルで活躍するベンチャー企業やスタートアップなどへの投資も進めることで、イノベーションや事業スケールアップの支援を積極的に実施したい」。
グローバルサウスの社会課題解決へ
フェアトレードや
アフリカコットンの可能性
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人権面では、グローバルサウスを産地とするサステナブルコットンの調達を強化する。「開発途上国とともに成長し、事業を通じて社会課題に取り組むという重要課題と直結したプロジェクト」と位置づけ、インドやアフリカをはじめとするサステナブルコットンの調達を通じて、農家や生産者の持続的成長を支援する事業へと発展させようとしている。自社ブランド「コットンエイト(COTTON∞)」では、8%以上のフェアトレードコットンで紡がれた綿糸を販売し、フェアトレードの普及拡大を目指す。
「特にタンザニアは、豊かな自然が育むアフリカ最大のオーガニックコットン生産地だが、異物(コンタミ)が多く安定性に欠けることで、低品質、低価格の綿花として取引されている状態。私たちが質の良いコットンを供給できるように、現地の生産者と一緒に汗をかき、トレーニングすることで、安定した品質、適正価格でグローバルマーケットに流通できるようになる。結果的に、農家や生産者の生活向上に貢献できると考えている」。
「産業のオーガナイザーとして
バリューチェーンを再設計する」

「商社の機能の原点である価値ある物や人同士を結びつけ、新たな価値を生み出すことは、サステナビリティの文脈でも同じ」と鬼形課長補。「産業のオーガナイザーとして、サプライチェーン全体を見渡す視点を持ち、あらゆる可能性ある価値をつなぎ、ビジネスを再設計し、磨き上げることで、繊維・ファッション業界のサステナビリティへの貢献を続けていきたい」。同社は産業の構造大変革に向けてまい進している。
「豊田通商」