ファッション
特集 パリ・コレクション2025-26年秋冬

「コム デ ギャルソン」の警鐘 巨大な存在だけが圧倒的なパワーを持ってしまっていいの?

コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の2025-26年秋冬コレクションは、いつも通り、彫刻のようなスタイルから始まった。ファーストルックは、ピンストライプ。スポンジのような素材を仕込んで自由に変える形からは、生地を今まさにテーブルに広げ、これから洋服作りが始まろうとしている一瞬を捉えている印象を受ける。

そこからコレクションは、小さな服の集合体で大きな洋服を作るようなアプローチに変貌を遂げる。例えばノースリーブのドレスは、赤いベロアのような生地に始まり、紫や黒のサテン、ダークグレーのスーツ地、そしてライトグレーのフランエルという5層構造。背中も同じ構造だ。その後も、人形に着せるような小さなドレスを寄せ集めたスカートを持つドレス、ジャケットの身頃をヒダ状に重ねて砂時計のようなシルエットを描いたジャンプスーツ、プリーツを寄せたスーツの袖をアコーディオンのように連ねたワンピースや、同様のアイデアで生み出したラストルックのドレスなどが続いた。

テーマは、「smaller is stronger(小さきものほど、強いもの)」。川久保玲デザイナーは、「大きなビジネスやビッグカルチャー、巨大なネットの世界など、大きいものにパワーがあるように思えるが、それだけではない。メゾンやアーティストには、小さな規模でも素晴らしい仕事がたくさんある。今回は削ぎ落とし、小さく表現したコレクション」と話した。集合体となって巨大な洋服を作った小さな服は、その「小さな規模でも素晴らしい仕事」の1つ1つに焦点を当てようとしたものであり、そんな仕事や職人、洋服、そしてブランドなどの総体は、時に大きなメゾンに匹敵することを訴えたかったのではないだろうか?そう考えると、ときどきモデルが身に着けるグローブは、闘うためのボクシンググローブのようにも見える。

ともすれば、そんな小さな集合体は、時に大きな存在を凌駕するという可能性さえ示唆しているのかもしれない。小さなパーツの集合体は、時に大きな洋服の全体を覆ったり、そのパターンに収まりきらないほど逸脱していたりもするからだ。

パリ・ファッション・ウイークやファッション業界、そして社会全般も、大きな存在の影響力が強くなっていることは否めない。ファッション・ウイークではビッグメゾンは壮大な演出で会場を沸かせ、ファッション業界では巨大コングロマリットの存在感は高まるばかり。社会でも巨大プラットフォーマーはヒエラルキー構造のもとで独占的なビジネスを推進している側面が強いし、世界では巨大国家の覇権争いが続くどころか加速している。世間の関心や憧れは、油断すると、そんな存在ばかりに向いてしまいがちだが、もっと小さな、別の存在や可能性に目を向けてみてはどうだろう?小さなスーツを集めて作ったラストルックのドレスを、モデルが大きく広げて歩く姿に希望や可能性を見出したい。

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