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 三菱重工業が超小型原子炉(マイクロ炉)の開発を進めている(図1)。炉心サイズが直径1m×長さ2mとトラックで運べる小ささだ。可搬性に優れることから、離島やへき地、災害時の電源として期待できる。次世代原子炉としては電気出力300MW以下の「小型モジュール炉(SMR)」などにも注目が集まっているが、マイクロ炉はそのSMRよりも小さい。果たしてどのような構造、仕組みなのか。

図1 三菱重工業が開発を進めるマイクロ炉
図1 三菱重工業が開発を進めるマイクロ炉
トラックで運べる大きさの超小型原子炉。離島やへき地、災害時などの電源を想定する。(出所:三菱重工業)
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 三菱重工によると、マイクロ炉の設計寿命は25年を目標としており、その間の燃料交換を不要にする。想定する熱出力は1MW、電気出力は500kWほど。大まかな比較だが、原子力発電所の大型軽水炉1基あたりの電気出力を1GWとすれば、マイクロ炉は数千分の1。前述のSMRと比べても、数百分の1程度の規模である。

 運転開始の目標時期は2040年ごろと少し先だ。三菱重工業取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の泉澤清次氏は2022年5月に開いた決算説明会で「脱炭素とエネルギー安全保障の観点から原子力が再評価されている」と語り、マイクロ炉を高温ガス炉(HTGR)や高速炉と並ぶ、同社の次世代の原子力技術として位置づけた。

まるで「オレオ」のような構造

 マイクロ炉は、原子力発電所で一般的な軽水炉とは異なる「新しい炉型概念」(三菱重工)という。軽水炉は冷却材と減速材として軽水(普通の水)を使うが、マイクロ炉では使わない。炉心の核分裂で生じた熱は、「高熱伝導体」を介して外側の伝熱管に伝わり、伝熱管内を満たす二酸化炭素(CO2)を加熱する(図2)。加熱したCO2を原子炉の外の発電機に送ってタービンを回して電力を生む。

図2 マイクロ炉の内部イメージ
図2 マイクロ炉の内部イメージ
最大850℃に加熱した二酸化炭素(CO2)を発電機のタービンに送る。(出所:取材に基づき日経クロステックが作成)
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 マイクロ炉は、軽水炉のような液体の冷却材を使わない「全固体原子炉」だ。炉心の高熱伝導体は円板形状で、材料は黒鉛系を想定する。この黒鉛の円板が、原子炉の冷却と減速材の役割を果たす。核燃料が入っているのは、同じく黒鉛で造られた「燃料板」。この燃料板には、まるで「蜂の巣」のように複数の穴が空いており、燃料ペレットが「蜂の子」のように並ぶ。

 黒鉛系材料を採用するメリットは、熱輸送能力の高さと軽さだ。黒鉛系材料の熱伝導率は銅の約4倍、密度はステンレス鋼の約4分の1とされる。

 炉心は、高熱伝導体と燃料板を交互に重ねて構成する。前述した直径1m×長さ2mという炉心サイズは、この複数の高熱伝導体と燃料板を重ね合わせたものの大きさだ。こうした炉心の構造について、三菱重工業原子力セグメント新型炉推進室主席技師の蒲原覚氏は「(ビスケットの)『オレオ』が重なり合っているような構造」と例える。

 原子炉の容器も軽水炉とは大きく異なる。マイクロ炉には、原子炉と外部を隔てる金属製の「格納容器」は存在するものの、軽水炉にある「圧力容器」に該当するものは見当たらない。格納容器は魔法瓶のような真空二重構造になっており、内部はアルゴンなどの不活性ガスで満たされている。真空二重構造にしているのは、高い断熱性により、熱利用の効率性を高めるのが狙いだ。

 マイクロ炉の出力を制御する手段は、大きく分けて2つある。1つは、通常の稼働時に出力を制御する「制御ドラム」である。詳細は明かさないが、炉心には複数の貫通穴が同心円上に空けられていて、その貫通穴に円筒形状の制御ドラムが挿入されているという。制御ドラムには中性子の吸収材が取り付けてあり、同ドラムを回転させて反応を制御する。

 もう1つは、炉心中央にある非常用制御棒で、緊急時に自動で挿入される。なお、緊急時には格納容器の二重構造の中空部にガスを充填し、むしろ熱伝導性を高める。崩壊熱は自然空気循環によって取り除く仕組みで、格納容器の内部の圧力は上昇せず、安全を確保できるという。