理化学研究所(理研)、産業技術総合研究所(産総研)、情報通信研究機構(NICT)、大阪大学、富士通、NTTは2023年3月27日、超電導方式の量子コンピューターのクラウドサービス「量子計算クラウドサービス」を開始した。同日の記者会見では、実用的な量子コンピューターを目指す上で解決すべき課題などが示された。
「(実用的な量子コンピューターの開発は)先の長いレース。先行するチームは世界中にいくつかあるが、我々が貢献できる余地は十分にある」。理研量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長は3月27日に開催した記者会見で、量子コンピューターの開発や公開で米国や中国に先行されてきた日本がこれから追い上げる意義をこう説明した。
今回理研などが公開した量子コンピューターは、理研と共同研究契約を結んだ企業や研究機関が実機を無償で利用できるというもの。ハードウエアは理研や産総研、富士通が、量子ビットにマイクロ波を照射してコントロールするソフトウエアや、量子コンピューターをインターネット経由で操作可能にするソフトウエアなどは大阪大学やNTTが中心となって開発した。
既に米IBMが日本国内に量子コンピューターの実機を設置して外部から利用可能にしているほか、米国や英国、カナダのスタートアップが開発した量子コンピューターも米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)や米Microsoft(マイクロソフト)のクラウドサービスを通じて利用できる。理研の今回の発表によって、日本国内で開発された国産量子コンピューターの実機も試せる状態になった。
理研としては実機を使ってもらうことで、材料探索や量子化学計算など量子コンピューターの活用を探る場合に分かった課題をユーザーと共有したり、新たに開発したハードウエア側の技術との相性について検証し、結果をユーザーと共有したりするといった連携がやりやすくなる。インターネットからアクセスできるようにすることで、新しいアルゴリズムを探索する研究者や開発者などユーザーの間口の拡大を期待できる。
乗り越えるべき3つの課題
今回理研が公開した量子コンピューターの初号機は、64量子ビットを搭載するハードウエアだ。これだけではまだ、現行方式のコンピューター(古典コンピューター)を上回る圧倒的な処理能力を発揮することはできない。量子誤り訂正が可能で実用的な性能を有する量子コンピューターを目指す上で解決しなければならない課題は3つある。
第1に、量子ビットを今よりもさらに増やす必要がある。量子コンピューターの実用化には100万量子ビット以上が必要との見方が大勢を占める一方、大阪大学と富士通は2023年3月に1万量子ビットでも古典コンピューターの10万倍は高速な量子コンピューターが実現できるとする新しいアーキテクチャーを発表している。
理研も今後、量子ビットの数をさらに増やす考えだ。そのために理研は量子ビットチップに、将来の大規模化をにらんだ制御配線を採用している。通常は量子ビットを搭載したチップの水平方向に制御用の配線を施すところを、理研の場合は垂直方向に配線することで、配線のクロストーク(混線)を防ぎ集積化を可能にした。