全3095文字

 霞が関の各府省庁や地方自治体と連携し、行政デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する司令塔であるデジタル庁。ただ、その周辺からは、情報共有や連携がうまく進まないといった不協和音が聞こえてくる。

広がる国と自治体の距離

 「国と自治体の距離が最も近くなったのがワクチン接種記録システム(VRS)の導入時だった。だがデジタル庁ができた後、距離は広がってしまった」。ある地方自治体の情報システム担当者はこうこぼす。

 この担当者はVRSの運用や自治体システム標準化対応の準備を担い、デジタル庁発足前から国と連絡を取っていた。自治体業務に直結するシステムの仕様などで、具体的な要望や提案を上げることもあった。ただ最近はデジタル庁側の動きが見えにくいうえ、意見を出しても聞いてもらえないと感じ、不信感が高まっている。

 デジタル庁は各府省庁と連携して政府情報システムの整備・運用をする。だが、ある政府関係者は「プロジェクトが『炎上』するなら一緒に取り組んでいるということなのでまだマシ。そもそも十分な連携が取れていないのが現状だ」とため息をつく。

 時計の針を9カ月ほど前に戻す。「デジタル以前に、霞が関の府省庁間の仲が悪いのが問題だ。それがシナジーを阻んでいる」――。デジタル庁発足を控えた2021年8月末、ある省庁職員が行政DXの阻害要因として、既にこんな指摘をしていた。

 その背景にあるのが、各府省庁内の縦割りの中で政策立案から予算編成、予算執行までが進められる現状である。それぞれ異なる目的を持つため、うまく連携を取りにくい。

 これに対し、デジタル庁は行政機関の縦割りを崩して、横串でデジタル化を進めることを期待されていた。実際、自治体システム標準化や政府情報システムの刷新といった行政DXには、横の連携が重要になってくる。

 だが、発足から9カ月たった今もなお、デジタル庁の周辺では「仲が悪い」までいかなくても、コミュニケーション不全やコミュニケーションの不足、十分に信頼関係が築けていないといった問題が起きている。どうしたらいいのか。

 新型コロナウイルス感染症対策の行動制限が緩和された今春以降、対面で多くの人が集まる機会が復活してきた。信頼を築き、連携を進めていくためには、組織や業種を超えた合宿形式の勉強会やシンポジウムにヒントがあるかもしれない。