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 日経クロステックはIT分野、電機・自動車分野、建築・土木分野という3つの技術分野をカバーし、それぞれで事件・事故を報道しています。例えばIT分野ですとシステム障害やサイバーセキュリティーの事故、電機・自動車分野ですと品質不正やリコール問題、建築・土木分野ですと設計ミスや工事のトラブルなどです。

2023年7月19日に電気通信大学で、日経クロステックが手掛ける事故・トラブル報道(IT分野)について講演した
2023年7月19日に電気通信大学で、日経クロステックが手掛ける事故・トラブル報道(IT分野)について講演した
(写真:日経クロステック)
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 私が担当するIT分野で最近話題のシステム障害といえば、富士通Japanのコンビニ証明書交付システムにまつわるものでしょう。バグがあったため他人のものが出力されてしまうといったトラブルが2023年3月下旬から相次ぎました。日経クロステックで最初に報じたのが3月29日。その後、(講演)直近の7月14日までこの関連で25本の記事を出しています。

なぜシステム障害を追うのか

 私は現在、日経NETWORKの編集長を務めていますが、その前は長く日経コンピュータに在籍し「動かないコンピュータ」などを取材執筆してきたほか、日経クロステックのIT分野で日々のニュースを差配してきました。今日お話しすることは会社としての見解ではなく、全てが私見とはなりますが、20年以上の経験から語らせていただくと、日経クロステックのIT分野がシステム障害をしつこく追う理由は主に3つあります。

 1つ目は報道機関としての使命です。読者の「知る権利」に応えるというのが、いずれの報道機関にもまず求められます。

(出所:日経クロステック)
(出所:日経クロステック)
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 2つ目はデジタル社会の到来です。社会にどんどんデジタルサービスが入り込むようになり、ゆりかごから墓場までデジタルが関与してます。そうした中、デジタルサービスのトラブルは我々の生活に極めて大きな影響を及ぼします。

 3つ目は専門誌としての自負です。バグやミスは決してなくなりません。もちろんITの現場では様々なツールや開発手法を使ってバグやミスをなくすように手を尽くしていますが、それでも絶対になくなりはしません。

 ですから、システム障害やセキュリティー事故が起こった際に、起こったこと自体を責めるのではなく、専門誌が原因を追求・分析して読者に広く共有することで、同様のトラブルを防ぐ、あるいはシステム障害への心構えを持っていただく、あるいは経営層に働きかけていただくようなことを通し、社会全体の発展に寄与できればという思いで取材や執筆に当たっています。

どんなシステム障害を追うのか

 我々はどんなシステム障害を追っているのか。主に5つあります。

(出所:日経クロステック)
(出所:日経クロステック)
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 まず利用者が多いシステムの障害です。代表例が、社会インフラを支えるシステムです。交通、電気、電話、ガス、水道、金融などですね。こういった業界のシステムに障害が起こると、まずは電話で状況を確認しています。

 2つ目は、業界トップのように、影響する組織が多い会社のシステム障害です。EDI業界トップの会社のシステム障害は系列企業や取引先の会社のシステムにも影響します。EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)システムや個別のシステム連携などを通して、企業間の取引も多くが電子化されているからです。

 サイバーセキュリティーにはサプライチェーン攻撃と呼ぶものがあります。これは攻撃したい企業に直接侵入するのではなく、取引先のネットワークに侵入してからシステム間連携などを介して本丸を狙うというものです。攻撃したい企業が大企業の場合は守りが堅いですのであえて正面突破をせず、取引先という裏口を狙うというわけです。