梅田望夫 ミューズ・アソシエイツ社長 パシフィカファンド共同代表,はてな取締役 著書に『ウェブ進化論』(ちくま新書)など Blog「My Life Between Silicon Valley and Japan」 |
「ウェブ時代5つの定理 この言葉が未来を切り開く!」,「私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる」(齋藤孝氏との共著)などの著者である梅田望夫氏と,Rubyの作者まつもとゆきひろ氏。2007年末に行われた対談のあとにあがった「話し足りない」との声から,2回目の対談が実現した。ネットのエネルギーをポジティブに向ける方法,オープンソースの強靱さ,個人が幸福になるためには――ウェブの未来をひらく2人が語り明かす。
(司会:矢崎茂明=日経ソフトウエア編集/高下義弘=日経コンピュータ
構成:高橋信頼=ITpro,写真:室川イサオ) |
---前回の対談は大きな反響をいただき,ブログやはてなブックマーク(前編,後編),mixiなどにたくさんの感想が寄せられました。
梅田 僕は自分の本に関する感想はだいたい見ているのですが,公開された時期には対談についての多くの感想が書かれましたね。
まつもと 意外にポジティブな反応が多かったですね。
自分はこんなふうにしてうまくいきました,という話はできるわけですけど,でも他の人が同じことをやって成功する保証はない。じゃあどうすればうまくいくのか,と問われると,そんなものはない,というのが答えなんですね。それじゃ参考にならないよ,と言われるのかと思っていたんですけど(笑)。
ロールモデルから自分に必要な部分を選び取る
---「ロールモデル」は,前回の根幹をなす言葉のひとつでした。
梅田 ロールモデルが実を結ぶまでには,いろいろな意味で時間がかかるんです。例えば「まつもとさんがロールモデルだ」と思ったとしても,すぐに「オープンソースを作る」ことはできないし、また「オープンソースを作る」というのが単純なインプリケーション(意味)でもないわけです。
例えば東京に住まなくても,地方で環境のいいところに住んで仕事をするということに感銘を受ける読者もいるし,どこに住んでいても世界に向けて仕事ができるんだなという部分を参考にしてもいいし。実際,読者というのは多様で,いろいろな部分に反応するんだなと感じます。
だから,狭めて見る必要はないと思うんですね。まつもとさんが放っている存在感,あこがれさせる力みたいなものは,案外5年10年たった時に,まるで違う仕事をしている,例えば企業の情報システムを作っている人だったり,ITの製品を開発している人が仕事のなかに“まつもと的なもの”を取り入れていく,そういうモデルもあると思います。
まつもと 全部僕と同じになったらつまらないですよね。ただ,私から一側面を取り出して,その可能性を感じてもらうということは意味があると思います。梅田さんがおっしゃった,東京に住んでいないところとか,ネットを使って世界を相手に仕事をしているところとか,オープンソース・プロジェクトのリーダーをしているところとか,それは多様だと思いますし,そういう取り出し方をしないとお役に立たない気がします。
梅田 10か20か,たくさんの要素があるはずなんです。どこに反応するかというのは本当に読者次第で。
まつもと ロールモデルとして見たときには,私という人間は素材なので,うまく料理していただければ。
梅田 ただ,まつもとさんの場合,ロールモデルは(Perlの作者である)Larry Wallだとおっしゃっていて,ストレートでしたよね。
まつもと でもLarry Wallの仕事そのものは参考にしていないんです。彼の姿勢みないなものを取り入れているという感じですね。
---外に開かれているところとか,説明を厭わないところとか,プログラマ・オリエンテッドなところに,まつもとさんとLarry Wallの共通点を感じます。
まつもと そのほかには「プログラマとしてやりたいこと」にブレーキをかけないというところでしょうか(笑)。
Larry WallはPerlの前にpatchというプログラムを作ってるんです。プログラムを変更内容を差分として抽出して,変更作業を自動化するプログラムで,それまではプログラマが目で見て手で修正していたんですね。今では修正することイコール「パッチをあてる」と言うくらい,世界中のプログラマが使っています。もしかしたらLarry Wallの最も大きな功績はpacthじゃないかと思ってるんですけど,そのほかにもニュース・リーダーとか,metaconfigという autoconfの先祖にあたる設定ツールとか,プログラマを楽にするツールをいっぱい作っているんですね。そういう「楽をするための苦労は厭わない(笑)」っていう態度はあこがれですね。
梅田 道具を先に作る。
まつもと 道具を作ることが楽しくて,よく手段と目的を混同してしまう(笑)。経営者から見るとどう思われるかわかりませんが,いち技術者としてはあこがれるタイプですね。