最近、ふと気づいた。IT活用先進企業の経営トップとそうでない企業の経営トップには、情報化に対する共通項がある。何かというと、いわゆる基幹業務システムには関心がないということだ。「ITが分からない」と公言する経営トップはもちろん、IT活用に非常に熱心な経営トップも基幹業務システムにはほとんど興味を示さない。よく考えると当たり前のことなのだが、この事実を把握しないから、企業の情報化談義や実際の商談がおかしなことになる。

 ここで言う基幹業務システムとは、狭義の意味での基幹業務システムのことだ。簡単に言うと、ERPがカバーしている領域のシステムである。さて、講演やセミナーなんぞでIT活用を熱く語る経営トップの話を聞いたことのある人は、思い出してほしい。ERPの話を、会計システムの話を熱く語っていただろうか。おそらく違うはずである。基幹業務システムは「基幹」という言葉に騙されるが、所詮はバックヤードのシステムである。

 では、IT活用先進企業の経営トップは、どんなシステムに高い関心を示すのか、また熱く語るのか。それはもちろん、収益に直結するシステム。顧客との接点のところにあり、本業のそのものに組み込まれたシステムである。概念的に言おうとするとくどくなるが、金融機関なんかを例に考えると、それは一目瞭然だ。そのすべてがIT活用先進企業かというと「?」だが、金融機関の経営トップは、ERPにほとんど関心を示さないが、融資や証券取引、保険などのためのシステムを熱く語るはずだ。

 小売業の経営トップなら店舗でのマーケティング、マーチャンダイジングの仕組みを実装したシステムについて、製造業の経営トップなら製品に組み込まれたITについて、いかにそれが売り上げ向上、顧客満足度の向上に効果を上げているか、熱っぽく話すと思う。最近では、Webを使った顧客サポートの仕組みを語り、SNSなどの活用の可能性について言及する経営トップもいることだろう。

 一方、このようにビジネスそのものをIT化する必要のない企業、せいぜい販売管理システムがあればよい企業の経営トップは、たとえ最新のERPを導入していても、ITには関心を示さない。これは当然のことである。で、IT活用先進企業とそうでない企業との差は、IT化できる、あるいはIT化しなければいけない直接業務があるか無いかの違いであり、経営トップの意識の差ではない。もちろん、これはざっくり言った話で、経営トップとよって意識の差はあるのだが、世間で言われているほどの格差ではない。

 念のために言っておくと、ERPから吐き出される経営数値が経営トップに無価値だと言っているわけではない。ただ、経営トップにとっては、必要な数字が必要なときに入手できればよく、過剰なシステムは望まない。いまどき「ERPで業務改革」といったスローガンを真に受ける経営トップはいない。ERPを含め基幹業務システムに関心を持つことがあるとしたら、それはITコストの観点からか、システム関連のリスクの観点からだ。

 そんなわけだから、IT活用先進企業“でない”企業に「先進企業ではERPを活用して・・・」「基幹業務システムを刷新して先進企業のように・・・」とITベンダーが売り込んでも、どうもしっくりこない。ただ、IT活用先進企業“でない”企業といえども、今後はビジネスの最前線でITを使う機会も出てくるだろう。IT活用先進企業の事例を持ち出すのならば、ユーザー企業の経営トップが熱く語れるシステムを提案すべきだろう。