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 既存のテレビアニメの世界に、超低コストかつ短納期、そして別種の面白さというウェブアニメ(FLASHアニメ)で乗り込んだ蛙男商会とDLE。次の狙いどころは意外にもメジャーシーン。才能の発掘にも意欲を見せる。

竹熊 日本のアニメビジネスって、これまで海外展開をまともに考えてこなかったようなところがあると思うんですね。

椎木 そうですね。「ポケットモンスター」「遊戯王」「爆転シュート ベイブレード」が、どーんといったくらいですかね。「ポケモン」にしても、結局は海外のディストリビューター(代理店)を使っています。だから成功したといっても、海外で商売するノウハウがたまっているのはディストリビューターで、日本のプロデューサーには、海外展開に関するビジョンとか、成功事例、自信だとかが、ほとんど蓄積できない。

古墳GALのコフィー
「THE FROGMAN SHOW」で流されたFLASHアニメ「古墳GALのコフィー」。信じられない絵と信じられないストーリー。番組は7月7日現在ここで見られる

竹熊 なるほど。

椎木 ディー・エル・イーが日本のコンテンツを海外に出そうとした過程で痛感したんですけど、たとえば(日本の)某社は権利関係が非常に面倒だとか、クリエーターさんがこれこれのこだわりがある、とかで、海外と交渉するにしても、原作が他社のものである限り、われわれの自由にならない部分というのがどうしても出てくる。

 それで、自社でも製作に乗り出そうと。もういっそ、100%自社の作品として世界に出せば、権利関係も楽だし、自由度も高い。パイプはもうあるわけですからね。それも企画書じゃなくて最初から映像で見せたらどうだろうかと。それで、自社でスタジオ機能を持ったのが昨年、2005年なんですね。

竹熊 では、まだ始めて間もないわけですね。

椎木 まだ7~8カ月です。でも始める以前からウェブアニメ(Flashアニメ)には注目していました。設備投資が少なくてすむ、簡易的なスタジオというメリットももちろんありましたけれども、実はウェブアニメの世界にはものすごい才能がいっぱいいるということに気がついたわけですよ。

 それでDLEで、そういう個人作家とタッグを組んでサポートできるなら、面白いことができると思ったわけです。

海外オタク層を狙うか否か

編集家 竹熊健太郎

竹熊 近年は欧米でもオタクといわれる層が出てきていて、日本のアニメが好きな人も多いみたいですけど、現在、市場としてはどのぐらいのものなんですかね。

椎木 アメリカでは30万人から50万人だと推計されています。

竹熊 たしか10年ぐらい前は、20万と言われていたんですよ。そこから10万増えているとしても、たぶん日本人が願っているほど増えてないという印象ですね。ファン層としては、やっぱり閉じちゃっているのかな、あっちでも。

椎木 まったくそうなんです。こういった30万から50万人のオタク層というのは、世界中、どこの先進国でも上澄みのように存在するんです。ここに映像を売り込むのは、実は簡単なんですよ。要するに海外のオタクの人たちって、いかに早く日本からの情報を見るかというのが勝負になってるんですよね。「今度日本ですごいアニメが始まった」「俺は見たよ、君まだ見てないの、俺の勝ちね」みたいな世界の人たちなんですね。

竹熊 だから世界中にいることはいるんですよね。

椎木 世界中にいるんです。そこに流すのは言ってしまえば簡単なんです。DVDを売れば、30万人のうち10人に1人、それで3万枚売れるわけですよね。たしかに商売にはなる。GONZOやProduction I.G(※1)作品にしても、世界でヒットと言われたとしても、実態はこの30万人の層に届いたという話です。

※1 GONZO:92年に設立されたアニメ・CG制作会社。東証マザーズに上場。フルCGで制作されたアニメ「青の6号」で名を上げる。Production I.G:タツノコプロから独立した、アニメ制作会社。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』などを手がける。

 僕はこれは素晴らしいことだとは思いますが、やっぱり本当にすごいのは、「ポケットモンスター」みたいに、ビデオが1000万本を出荷したとか玩具が世界中でバカ売れしているとか。そういうレベルに来ないと、本当の意味でマス・マーケットに受けた作品とはいえないんではないかと。

 僕は、蛙男商会の作品はマス・マーケット向けにある程度勝負ができると思ってます。現実に今、米国での出しどころも増えてきてまして、ケーブルテレビだけじゃなく…

竹熊 海外で流れるんですか。

ディー・エル・イー 椎木隆太社長

椎木 流れます。それはDVD発売の後にしようかなと思っているんですね。日本でDVDが出るのは9月なんですよ。その後、9月の後半から10月にかけてやろうかなと思っているんです。まずケーブルテレビ、それからブロードバンド配信。アメリカのブロードバンド会社さんも、やはりいかにコンテンツを集めるかというのに腐心していますので。この前、関係者がDLEにも来まして。

竹熊 「THE FROGMAN SHOW」を見せたわけですね。向こうの人が見て、どうでした。

椎木 「秘密結社 鷹の爪」は大受けでした。「古墳GALのCOFFY」は…ちょっと難易度が高かった。

竹熊 ははあ、古墳が分からないと?

椎木 ジャパニーズ・ピラミッドと言えば何とか伝わるんですけれども。中に副葬品があるとか、中に人(死体)がいるとかというのをひとつずつ説明すると、ああ、なるほどって分かりますけどね。そのかわり、「鷹の爪」は相当に受けてました。あれは完全に分かります。

竹熊 もともとフォーマットはあっちですからね、ヒーローと悪の組織の闘いは。

椎木 ここで「鷹の爪」を試写して、その後クラブに行ったんですが、次の日も帰る直前もずっとみんな、「ターカーノーツーメー」(※)って言い合ってました。帰国してからもずっとやっていたらしいですから。

(※) 秘密結社「鷹の爪団」の合い言葉。番組中でしつこく流された

竹熊 あっちの秘密結社、あんな合言葉とかあるんですかね。

FROGMAN(以下F) コメディ映画の『オースティン・パワーズ』でもやってたじゃないですか、敵の首領が変な合言葉を。じつは鷹の爪の合言葉は、あれの影響なんですけど。誰か気が付くかなと思ったんですけど、誰も言わないのでここで話してしまいましたが。

映画館のCM枠に登場したい…

竹熊 だから物語の枠組みとして、世界的なフォーマットさえ使えば、あとはFROGMANさんのセンスで十分勝負できる感じがありますね。

椎木 そこは勝算がありますね。逆に日本からああいうテイストの作品って今まで出てこなかったじゃないですか。

竹熊 純粋ナンセンスは、なかなか日本ではね。マンガだとありますけど。

F アニメだと、たぶんないですね。

椎木 我々が今やろうとしているのは、FROGMANのウェブアニメのファン層の次、普通のアニメファンを抱えたいんですよね。ですから今、「菅井君と家族石」のDVDを出されるビクターさんにお願いしているのは、雑誌宣伝も大事ですけれども、店頭にテレビを置いてデモをやってくださいということなんです。

 なぜ店頭でやるかというと、蛙男商会の「か」の字も知らない、Flashアニメの「フ」の字も知らないような人がDVDショップの店頭で、FROGMAN作品を直接見てほしいからです。そこからファンを増やしていきたいんですよ。

 蛙男商会作品に関しては、見せるチャンスさえ提供できれば、絶対に勝てると思っているんです。あと考えているのはやっぱり劇場で上映することです。具体的には映画館のCM枠、そこに割り込めないかと。ダイヤモンドは給料の3カ月分とか言ってる後に、「古墳GALのCOFFY」とか「秘密結社 鷹の爪」が流せたら最高ですよね。

F 「携帯電話を切りましょう」という告知アニメを、蛙男商会が作るとか。

椎木 お客さんが偶然見て、何だこの変なアニメは、でも笑っちゃった、というところを大事にしたいんですね。そうすれば、今までのファンと全然違う層がつかめるのではないかと思っているわけです。

F 昨日も谷プロデューサーと地下鉄に乗ってて、ドアの上に液晶モニターがあるじゃないですか。ああいうところも何か使えないかなとか考えたんですよね。

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