「Airbnb(エアビーアンドビー)」に追い風――。政府が2015年6月30日に閣議決定した「規制改革実施計画」で、「民泊」の規制緩和を実施すると明記した。
具体的には、自宅を提供して他人を宿泊させる「民泊」について、「イベント開催時」に、宿泊施設の不足が見込まれれば、旅館業法の適用外とし、民泊を許可するとしたのだ。
今回の規制緩和は、米国で一大サービスとなっている空き部屋を有料で貸し出すAirbnbのようなサービスに対応する形で行われたと見る向きが大きい。現行法では、日本においてAirbnbでホストとして自宅を貸し出すのは「黒に近いグレー」(みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士)なのだ。
国内では旅館業法において「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」のことを「旅館業」と定義している。自宅を開放して宿泊させる場合、この旅館業法に抵触する恐れがあった。宿泊料を受けて人を宿泊させる「業」である場合、それは「旅館業」ということになり、「旅館業」であれば、旅館業法に照らし合わせて、帳場の設置や部屋の広さ、消防や衛生面など、クリアすべき条件は多い。
「ポイントとなるのは繰り返し“業として”やっているかどうか。知らない人に貸しているかどうかなどの事業規模。両方とも過去の判例からみると、現行法ではAirbnbのホストは黒に近くなる」(三平弁護士)。
これに対し、Airbnb Japanの田邉泰之代表取締役は「既存のルールが、自宅を時折、貸し出している方に当てはまるのかは不明確。ホストになる場合は、ホストへは法律や規則に沿った形で利用してもらうよう告知している」と返す。
そのような状況下においての今回の規制改革は、「大変喜ばしいこと」(田邉氏)。Airbnbは、すでに日本で1万件以上のホスト(自宅)登録があり、年率300%で伸びているという。今回の規制改革は、さらなるサービス拡張への弾みになるはずだ。
厚労省の本音は「使ってほしくない」?
筆者も国内・海外問わず、旅行に行く際にはAirbnbを必ずチェックするようになって久しい。去年の夏のニセコ旅行には、友人と一緒に森の中の家を一棟借りして楽しんだ。今回規制緩和となる「イベント時」ということであれば、夏の音楽フェスでホテル難民になる可能性が減るかも知れないと期待も膨らむ。今後ホストになることも検討したいと考えているだけに、今回の規制改革は諸手を挙げて喜びたいところだ。
ところが、取材を進めてみると、その喜びは文字通りぬか喜びだったのかもしれないと思わされた。今回の規制改革に対して、地方自治体から聞こえてくるのは、困惑の声しかないのだ。
6月30日に閣議決定後、管轄省庁である厚生労働省は各自治体に対して対応をする申し送りを行った。その内容が自治体の混乱の元となっている。
旅館業法に基づいて、旅館業に対して許可を出すのは地方自治体だ。違反があったときの注意喚起などは自治体の保健所が中心となって行われる。各自治体で条例なども違うため、「特に厚労省からガイドラインなどは示さない。自治体の判断で行ってもらう」(厚生労働省)。
これに対し、福岡県のある自治体担当者は「活用する予定はない」ときっぱり言う。「正確に言えば、活用できないのだ」と。なぜか。
自治体に届いた「お粗末な」事務連絡
6月30日の閣議決定を受けて、地方自治体には厚生労働省から7月1日付けで6枚の紙が届いた。「規制改革実施計画への対応について」という「事務連絡」だ。6枚と言っても、内容は「この通知はなんだ?というほどのお粗末なもの」(前出自治体担当者)だ。
平成27年6月30日に閣議決定された規制改革実施計画において、投資促進等分野や地域活性化分野への対応として、理容師法、美容師法及び旅館業法に関する規制の見直しについての対応が盛り込まれていますので、別添の通り情報提供いたします。(中略)下記の点については、管下関係機関等への周知及び適切な対応につきご配慮願います。
(中略)
2.イベント開催時の旅館業法上の取扱いについては、「反復継続」に当たる場合には、旅館業法施行規則第5条第1項第3号による特例の対象として取り扱うこととなるが、年1回(2~3日程度)のイベント開催時であって、宿泊施設の不足が見込まれることにより、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高いものについては、「反復継続」するものではなく、「業」に当たらない。
なお、自治体の要請等に基づき、公共性が高いことを要件とする考え方であることから、開催地周辺の宿泊施設が不足することの確認や反復継続して行われていないことが確認ができるよう、自宅提供者の把握を行うことなどが求められる。
通知には上記があるのみで、そのほかは一般公開されている「規制改革実施計画」を抜粋したものが5ページにわたり貼り付けられているだけだ。
「腹立たしいとさえ思いますよ」。前出の自治体関係者はそう言い、こう続けた。「詳しい説明があるわけでもないし、無責任ですよ。一方的な連絡がきただけで、どうすりゃいいのという感じです。厚労省の本音としては、使ってほしくないのかもしれないですね」。
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