作家・樋口毅宏が引退表明!? 「作家なんて男子一生の仕事じゃない」
『タモリ論』などのヒット作で知られる作家・樋口毅宏が、まさかの引退!? 刊行されたばかりの新作小説『太陽がいっぱい』。その帯にはハッキリと「樋口毅宏引退作品」との言葉が打たれていた。
その小説『太陽がいっぱい』のテーマはプロレスだ。プロレス界を虚実綯い交ぜで描いた全8編の連作集。なぜ今、プロレスなのか。そして引退の真相は? 本人に直撃してみた。
――まずはじめに、プロレスを小説の題材にした経緯についてお聞かせください。
樋口:「ある悪役レスラーの肖像」という一編は、昭和プロレスが好きな人なら誰でもわかるようにラッシャー木村がモチーフ。子供の頃、俺も世間と同じようにラッシャー木村、アニマル浜口、寺西勇のはぐれ国際プロレス軍団が嫌いで、「卑怯な手ばかりしやがって!」って憎んでいたほどだった。
ところが成長するにつれてプロレスにショーの要素があるとわかるようになり、その後のアントニオ猪木とラッシャー木村の人生を追い続けると、「猪木って何て極悪非道のエゴイストなんだろう」とわかった。ま、猪木に関わらず、スーパースターってそういうものだろうと思うけど。
ラッシャー木村が亡くなったのは何年? 2010年? そうか、今年は7回忌なんだ。この本がいい供養になるかもしれない。俺らの世代のプロレスファンでラッシャー木村を知らない人はいない。だけどプロレスに関心がない人は知らない。ましてや若い人はもっと。
俺はこれまで自分が好きなもの、影響を与えてくれたものに感謝して、オマージュを捧げる作品ばかり書いてきたし。
――オマージュ! 便利な言葉ですね。
樋口:俺のブルドッキング・ヘッドロックを喰らいたいか? おまえが3人目になるぞ。もっとも、前のふたりはいま墓の下だけどな。
――し、失礼しました。
樋口:あーどこまで話したっけ?
そうだ、オマージュを捧げてきたって話だ。『テロルのすべて』は長谷川和彦監督の名作『太陽を盗んだ男』だし、『二十五の瞳』は木下惠介監督の『二十四の瞳』。『ドルフィン・ソングを救え!』はフリッパーズ・ギター。言い出したらきりがない。
『太陽がいっぱい』は、いまだ自分の中から消え去らない、憧れと強さと憐憫がギュッと詰まったレスラーたちに捧げているんだ。
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