そこはもう譲れないギャル魂で
──聞けば聞くほど『solitary』というタイトルがピッタリなんだなと思います。内容の方にも触れていきたいのですが、最初からソロではfemme fataleとは違うことをやろうというのが明確にあったのでしょうか。
戦慄 : うん。全然違うことをやるため、ファムとのバリエーションを見せるためにやりたいってなって、そこから方向性を決めていきました。でも、アイドルっぽい活動だけの私というのに違和感があって。もっとブラックな部分が出せる場所がほしいし、ファムは「鼓動」を出したりして、私が(両手で視界を狭めながら)こうなっていたので、突っ走りすぎて頓知気(さきな)が疲れちゃいそうだったんです。私と同じペースに頓知気を巻き込むことになっちゃうのもよくないというのもあって、ソロをやろうと思って、私のやりたい方向をケンモチ(ヒデフミ)さんと探っていきました。
──最初に出た「Fire paan」がその宣言のような曲でしたよね。
戦慄 : そうです。戦慄かなのソロ曲となった時、当時は「moreきゅん奴隷」がTikTokとかで流行ったりもしていたので、そういう感じの曲をやると見せかけたイントロでそのイメージからの脱却するというのをわかりやすく表現してみました。
──ダークな世界に切り替わる展開は衝撃でした。一体、何考えてるんだろうと。
戦慄 : 何考えてるんだろうって(笑)。でも、みんなビジュアルとか雰囲気を見てるので、それがどういうジャンルとか、曲としてどうなのかっていう見られ方はしなかった気がします。初披露の時もダンサー10人でセクシーな曲を着てやったので、神ビジュ!みたいな感じで見られてたから。「Fire paan」が曲として一番好きというファンもあんまり見たことないかも。やっぱり「Baby UFO」とか「soda」みたいな、わかりやすかったり、かわいかったりする曲が人気になるんですよね。でも、眉村(ちあき)がいちばん好きな曲って言ってくれました。「あなたは日本のビリー・アイリッシュだよ」とかいって絡んできて(笑)。
──眉村さんが好きというのは腑に落ちます。先が予測できない曲ですし。
戦慄 : 私も好きな曲ですね。
──これはケンモチさんに聞いたのですが、曲を作る際に戦慄さんがこういうことをやりたいとリファレンスを提案していくんですよね。
戦慄 : そうですそうです。好きな曲を雰囲気とかで割り振ってあるリストがいっぱいあって。リストに入れてる時はこういう曲にしようとは特に思ってないんですけど、作るとなった時に、そこから聴いて考えるという感じです。
──ビート感の強いダンス・ミュージックでまとめあげるというのは念頭にあったのでしょうか。
戦慄 : ダンサーをつけることが決まっていたから、ダンサーも映えるような曲にしたかったですし、ギャルばかりなのでイカついことがやりたかったんです(笑)。「Fire paan」の時は、ケンモチさんに2曲お願いしていたので、もう1曲はジャージー・クラブをやるというのは決めてました。
──それが「drop」ですよね。戦慄さんの口から“ジャージー・クラブ”という言葉が出てくるのもびっくりで。
戦慄 : 本当ですか? あとはトゥワークでお尻振りたいという構想もあって、ダンサーとお尻振ったらすごい迫力だろうなと思ったんです。
──(笑)。そして「Baby UFO」が産まれると。アイドルのインタビューで“トゥワーク”もまず聞かない言葉ですよ。
戦慄 : トゥワークをしたいアイドルです(笑)。フィメール・ラッパーも好きだけど、全く同じことをやるのはおもしろくないと思いました。
──そこがおもしろいところで、イカついものとかブリンブリンなものをそのまま引っ張ってくるのではなく、かわいらしいフィルターをかけて落とし込んでいますよね。
戦慄 : それはありますね。海外ラッパーの歌い方や身振りをそのまま取り込んだとしても結局はモノマネみたいになっちゃうとダサくなってしまうので。そこは意識しているところです。日本でそういう音楽をやる時にかわいくする人はそんなにいないので、そこは強みだと思います。
──その上で、映像作品やライヴではド派手に盛りまくって。
戦慄 : そこはもう譲れないギャル魂で(笑)。基本は自分に自信がないので盛らないと不安になるんですよ。間を埋めたいし、間奏もお尻を振っとかないとっていう(笑)。
──装備として盛るわけですね。その意味では、「moist」のMVは真逆の発想と言いますか、シンプルにダンスを見せる映像作品ですよね。
戦慄 : 色んな雰囲気を出せたらいいなと思って、なかった隙間を埋めてみました(笑)。ダンスをやってる時がいちばん楽なんですよね。決まった振り付けを踊っている時って緊張しないし、強く見せられるし、好きなんです。疲れるんですけどね(笑)。逆に歌は自信ないです。本当に緊張する。
──そうなんですね。個人的には尖った要素のすべてを最終的にいいバランスでまとめているのが戦慄さんの柔らかい歌声だと思っているんです。
戦慄 : えー、ありがとうございます。こういう曲をイカつく歌うとやっぱりモノマネになると思うから、ゴーイング・マイ・ウェイですね。最初はケンモチさんに「ラップをこうしてみようか」と言われたりしたんですけど、「いや、私はこれでいきます」みたいな。
──しかし、話を聞くほどに物作りに関してストイックだなと思います。努力家な面もファン以外にはあまり知られてない部分ですよね。
戦慄 : 努力売りはイヤじゃないですか。努力して然るべきだし。アイドルって枠じゃなくて、一人でやってるアーティストでもっと努力してる人は全然いるわけで。そういう人のプレッシャーに比べたら私なんてまだまだなので。NetflixでBLACKPINKの映画があるじゃないですか。
──ドキュメンタリーですよね。練習生時代は過酷だし、デビューしても過密スケジュールだし、という。
戦慄 : そうそう。もう全部見てるのに、昨日、YouTubeでたまたま予告見ただけでまた泣けてきて! みんな頑張ったし頑張ってる、私ももっと頑張らないとって(笑)。リサが練習生2年目でデビューできると言われたのに、そこから3年間練習生をやらされるんですよ。その途方もない気持ちを考えると、私は気が遠くなるくらい練習してないだろって思うんですよ。たかだか2週間後のライヴに備えるとかなので。5年間みっちりと毎日14時間も歌・ダンス・歌・ダンスとレッスンをやってない。だからお前もやるんだよと思ったりしますよね……。
──(笑)。ともかく頑張る姿勢をあまり表に出してこなかった。
戦慄 : みんなに見せてる作品がすべてだから、その裏側には興味がないだろうとも思うんです。服を着てても、これを誰が作ったか気にしないのと同じで。それに、裏を評価してわかった気になられるのもイヤというのもあるのかもしれん(笑)。ちょっと拗らせてるんですかね。
──でも、じつは戦慄かなのがこういうことを考えてモノを作ってるというのをこうして残しておくのはいいのかなと思いますよ。