W杯の日本 ビッグネームと同居せず、気候に利
サッカージャーナリスト 大住良之
初戦は6月14日午後7時(日本時間15日午前10時)にレシフェでコートジボワール、第2戦は19日午後7時(同20日午前7時)にナタルでギリシャ、そして第3戦は24日午後4時(同25日午前5時)にクイアバでコロンビア――。
FIFAワールドカップ2014ブラジル大会(2014年6月12日~7月13日)の組分け抽選会が6日、ブラジル北東部のコスタドサウイペで行われ、日本は南米の雄コロンビア、アフリカ最強を誇るコートジボワール、そして欧州予選を堅守速攻で勝ち抜いたギリシャとともにC組に入った。
■「ラッキーな抽選結果」なのか
日本がこの組で2位以内に入って決勝トーナメントに進出すれば、その1回戦「ラウンド16」で当たるのがD組1位あるいは2位のチーム。この組には、第1シードのウルグアイのほか、コスタリカ、イングランド、そしてイタリアが入った。
コスタリカを除く3チームがすべてワールドカップ優勝の経験をもつ強豪だ。ドイツ、ポルトガル、ガーナ、そして米国が入ったG組とともに「死の組」と言ってよい。
そのD組に比べると、日本のC組には「ビッグネーム」がない。出場回数の総和「16」は、8組のなかで最も小さな数字。D組は「48」にもなる。国際サッカー連盟(FIFA)ランキングの総和も、D組の「57」に対しC組は「81」。「ラッキーな抽選結果」と考える人も多いに違いない。果たしてそうだろうか。
初戦、大会3日目にレシフェで当たるコートジボワールは06年大会から3大会連続3回目の出場。過去2回はともにグループリーグ3位に終わっている。
FWドログバ(ガラタサライ)を中心とした「黄金世代」で過去2回のワールドカップを戦ってきたが、そのドログバも来年のワールドカップでは36歳となる。
しかしアフリカの2次予選では強豪モロッコと2分けした以外は4試合に勝ち、最終予選でもセネガルに3-1、1-1と1勝1分け。結局、予選を無敗で乗り切った。
■ザッケローニ監督と「師弟対決」
監督はチュニジア系フランス人のラムシ(42)。フランスのほかイタリアでもプレーし、03~04年シーズンにはアルベルト・ザッケローニ監督指揮下のインテル・ミラノで活躍した。ザッケローニ監督とは「師弟対決」となる。
日本との初対戦は1993年の「アフロ・アジア選手権」。「オフト・ジャパン」が「ドーハ」に出発前の10月に来日し、国立競技場で対戦した。0-0のまま延長戦まで戦い、延長戦後半に三浦知良が決勝ゴールを挙げて日本が勝った。
2008年にはキリンカップで来日、このときにも玉田圭司の得点で1-0の勝利をつかんでいる。そして3回目は10年のワールドカップ前にスイスのシオンで対戦。このときには0-2で敗れた。通算成績は日本の2勝1敗だが、2勝はいずれも日本国内のものなので、あまり参考にはならない。
■初戦は勝手知ったスタジアムで
189センチのFWドログバ、その背後からゴールを狙う攻撃的MFのヤヤ・トゥーレ(191センチ)ら、大型でフィジカルが強いのがこのチームの特徴。この相手から勝ち点を挙げるには、粘り強い守備が必要だ。日本としては、今年6月のFIFAコンフェデレーションカップのイタリア戦(3-4)をレシフェで戦っており、勝手知ったスタジアムで初戦を迎えられるのは小さからぬアドバンテージだ。
第2戦にナタルで当たるのがギリシャ。欧州予選では10戦して8勝1分け1敗という好成績を残し、同じ勝ち点25のボスニア・ヘルツェゴビナに次ぎ2位となり、プレーオフでルーマニアを3-1、1-1で下して3回目の出場を決めた。
■ギリシャ、特筆すべき守備の堅さ
特筆すべきは、12試合で失点わずか6という守備の堅さ。大型選手を並べて堅固な守備組織を敷き、目の覚めるようなカウンターアタックを繰り出す。
04年の欧州選手権で優勝したときのヒーローであるベテランのFWカラグニスがプレーメーカー役を果たし、ドイツ育ちの大型FW、新エースのミトログルが決める。
日本との対戦は過去に1回だけ。05年のコンフェデ杯(ドイツ)の第2戦、フランクフルトで戦い、大黒将志の得点により日本が1-0の勝利をつかんでいる。
チームのタイプからいって、日本がパスを回してボールを支配する形になりそうだが、相手が最も得意とするカウンターには、十分すぎる準備が必要だ。
■12年欧州選手権で準々決勝進出
監督はポルトガル人のフェルナンド・サントス(59)。10年に就任し、12年欧州選手権、14年ワールドカップと大きな2つの大会で連続して予選突破を達成、12年欧州選手権では準々決勝進出を果たしている。
日本にとってプラスになりそうなのが、初戦の会場レシフェとナタルの間は約240キロと、この大会の12会場間のなかで最も近く、気候の面でも近いことか。ギリシャはコロンビアとの第1戦を高原で「常春の町」と言われるベロオリゾンテで戦っており、ギリシャ選手は暑さに強いといっても、ナタルの高温多湿には苦しむかもしれない。
そして第3戦、クイアバで対戦するのが、この組のシードチームであるコロンビア。激戦の南米予選を9勝3分け4敗、アルゼンチンに次ぐ2位で突破した。伝統的に攻撃的なサッカーをする国で、FWファルカオを中心とした攻撃力に注目が集まっているが、南米予選16試合で最少の13失点という守備力も無視できない。
■世界ランク急上昇のコロンビア
11月14日、私はベルギーのブリュッセルでベルギー対コロンビアの試合を見ることができた。コロンビアは前半こそベルギーのスピードに苦しんだが、後半になると相手を上回る活動量で攻勢に立ち、MFロドリゲスのスルーパスで抜け出したFWファルカオが先制、交代出場のMFイバルボが2点目を決めて2-0で勝利をつかんだ。そしてコロンビアは、その5日後にはアムステルダムでオランダと対戦、0-0で引き分けている。
監督はアルゼンチン人のペケルマン(64)。10年夏に日本代表の次期監督候補に挙がったひとりだ。アルゼンチンでは長く育成年代の代表チームの指導者として活躍し、FIFA・U-20ワールドカップで3回の優勝を飾るとともに、MFサビオラら数多くのアルゼンチン代表選手を送り出した。12年1月にコロンビア代表監督に就任、当時FIFAランク35位だったチームを今年11月時点で4位にまで引き上げた。
■強固な守備、運動量生かした攻撃
日本とは過去2回対戦。03年のコンフェデ杯(フランス)では2位の座を争ってグループリーグ最終戦で対戦(サンテティエンヌ)、日本が優勢に試合を進め、0-0のまま引き分けていれば日本が準決勝進出だったが、68分に一瞬のスキをつかれて失点し、0-1で敗れた。そして07年のキリンカップ(埼玉スタジアム)では0-0で引き分けている。
粘り強く組織も強固な守備力と、運動量を生かした攻撃力は、いずれも「シード」に値するものをもっているコロンビア。このチームと当たる前にグループ突破のめどをつけておきたいものだ。
今回の抽選を前に多くの監督が異口同音に語っていたのは、「対戦相手よりもどこで試合をするかのほうが気がかり」ということだった。
■日本の3会場、気温も湿度も高め
広大な地域に会場が散らばっているだけでなく、気候の面でも大きく違うブラジル大会。最も北に位置するマナウスはほぼ赤道直下に当たり、日中には気温32度を超し、湿度80%超と高温多湿。一方、最も南のポルトアレグレの6月は最高気温が10度に達しない日もある。移動距離だけでなく、大きく違う気候への順応が懸念されるのだ。
そうした面で日本の3会場をみると、南半球では冬季に当たる6月にあっても、3都市とも比較的気温も湿度も高い日が多いことで共通している。
ナタルからクイアバへの直線距離は2500キロにもなり、時差も1時間ある。この移動は少し大変だが、「アマゾン川の南からの入り口」の異名をもつクイアバは、冬でも高温多湿で知られる町でもある。気候面でレシフェ、ナタルと大きな違いはない。
■日本、根拠地は北東部の大西洋岸か
レシフェとナタルはいずれもブラジル北東部、大西洋岸の都市。C組で2位になると決勝トーナメントの1回戦(D組1位と対戦)では再びレシフェに戻ることになるので、日本はブラジル北東部の大西洋岸の町を根拠地にするのではないか(1位なら1回戦はリオデジャネイロ)。
すなわち今回のワールドカップでのコンディション面での日本の課題は高温多湿の気候に慣れることにある。それに成功すれば、良いコンディションで3試合を戦い抜くことができるだろう。
同じグループに「ビッグネーム」がなく、気候の面で大きな不安がない今回の日本。その利を生かしてぜひともグループリーグを突破し、決勝トーナメント1回戦で予想される優勝候補チームとの対戦で最高のパフォーマンスを期待したいところだ。