放課後はタブレットが「先生」 ベネッセなど動画配信
タブレット(多機能携帯端末)を小中学生の家庭教育に生かす動きが活発になっている。いつでもどこでも、手軽に学習に利用できるのがタブレットの強み。動画やアニメを多用した教材なら、児童や生徒の学習意欲をかき立てられる。通信教育にジャストシステムや増進会出版社(静岡県長泉町)、ベネッセホールディングスなどが相次ぎ参入している。
塾より費用安く
「脱ゆとり教育の影響で、児童の理解度に格差が生じている。教科書の内容が5割増なのに授業時間は1割しか増えていない。タブレットでその差を埋めたい」――
パソコン用ソフト「一太郎」で知られるジャストシステムの植松繁ライセンス事業部長は、2012年12月に小学生向けの通信教育「スマイルゼミ」を立ち上げた理由をこう語る。肌身離さず持ち歩くタブレットと、質が高くワクワクする教材を組み合わせれば放課後、児童が自主的に自宅で学習するはずだとみる。
例えば国語では漢字の手本を画面に表示し指でなぞりながら書き順などを学べるほか、文章を読みながら単語の意味を調べたり音読を録音して後で聞き直したりできる。理科では昆虫の脱皮シーンや花の成長過程を動画で紹介。動画やアニメに指で触れて楽しく学べる点にこだわった。
従来の通信教育は添削に時間がかかり、その日のうちに学習が完結しない。一方、塾や家庭教師はその場で疑問を解消可能だが費用が高い。「タブレットとネットの力を借りれば、在宅学習でも児童の理解度は均等になる」(植松部長)。ジャストシステムは国語、算数、理科、社会の4教科について学習指導要領に沿った教材を毎月ネット経由でタブレットへ配信する。料金は2980円からに抑えた。
通信教育大手や塾も商機拡大のチャンスとみる。増進会出版社は傘下のZ会を通じて、幼児や小学生を対象に英語や科学の教育サービスを12年4月に開始した。
関西が地盤の進学教室、浜学園(兵庫県西宮市)は12年12月から、塾に通う小学生向けにタブレットを活用し始めた。教材の問題文をタブレットのカメラで撮影するだけで、その問題の解説動画をクラウド上にある同社のサーバーから探し出し再生する。苦手な問題の解き方をその場で学べ、基礎学力向上が見込めるという。
週1回の遠隔授業も
一方、教科書の補完役をタブレットに担わせようと試みるのが、「進研ゼミ」で知られるベネッセホールディングスだ。4月に、中学生向けコースでタブレットを活用し始める。
疑問やつまずきやすいポイントを解説した動画が見られるほか、週1回の遠隔授業も受けられる。講師からの問いかけにその場で解答を伝えられるなどの工夫を施した。まず中学1年生向けから始め、78万人いる中学受講生全員が使えるよう順次、環境を整える。
各社がタブレットによる通信教育を急ぐのは、政府が推進している教科書の電子化が追い風になるとみているためだ。文部科学省はIT(情報技術)を活用して小中学校の教育現場を改革する指針として「教育の情報化ビジョン」を11年に策定。タブレットなどを使った電子教科書の導入を重点課題に位置付けた。20年度までに小中学生にタブレットを一人一台ずつ配備し、電子教科書で学べる環境を整える構想を掲げる。
かつて文科省は学校へのパソコン導入を推進したが、ハード導入を重視したため思ったような成果が上げられなかった。今回は教科書との連動などソフト面での充実も図る。児童や生徒の自主的な学習を促すだけでなく、常に持ち歩くタブレットを活用して地域の学習塾などと連携した学習環境の改善も目指す。学習習熟度の地域差解消にもつなげたい考えだ。
12年度末で国内で個人が使うタブレットは706万台、17年度末には約2700万台に増える(インプレスR&D調べ)。調査会社のシード・プランニング(東京・文京)によると、教育関連に使われるハードウエア市場は16年に1038億円と現在の100倍近くに急伸する見通し。国内の小中学生は約1000万人。巨大市場めがけて各社がサービスを競う。
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