CDしのぐ「最高の音質」で音楽の感動を味わう
PCオーディオの世界(1)
オーディオの目的は「音楽から感動を得る」ことだ。アーティストが心を込めた演奏を忠実度が高くて情報量が多く、感情の微妙なアヤまでこと細かに再生してくれるオーディオシステムで聴くなら、感動は何倍にも膨れ上がるだろう。
そのための最新の、そして最強のシステムがPCオーディオだ。オーディオの歴史は1950年代のLPレコードの誕生から始まる。レコードプレーヤーが登場し、次に1982年にCD(コンパクトディスク)が発売され、CDプレーヤーの時代になった。CDは今までも、またこれからも生き延びるだろうが、このCDを超える音質とメディア性を熱く期待されているのが、PCオーディオなのである。
類似のシステムでPCオーディオに近いのが、iPod(アイポッド)やウォークマンなどの携帯音楽プレーヤー。そのユーザーなら、CDから音源データを取り込み、プレイリストによって、好きな曲を好きな順に自在に聴ける便利さが、PCオーディオにもそのまま受け継がれているといえば理解が早いだろう。
携帯プレーヤーの操作性+圧倒的な音質力
しかし、携帯プレーヤーとは全く異なるのがその音質である。PCオーディオは、コンベンショナルなCDメディアを音質において大きく凌駕する可能性が高い。そのポイントは、(1)パソコンでリッピング(取り込み)したCD音源、(2)配信を受信してためた「ハイレゾ(ハイレゾリューション=高解像度)音源」――の再生だ。それを詳細に説明する前に、PCオーディオで必要なアイテムについて解説しよう。
従来のオーディオはCDプレーヤーでディスクを掛け、その信号をアンプで増幅し、スピーカーで音にするという構成だ。PCオーディオはCDプレーヤーが担っていた音源部分の改革。アンプ、スピーカーはそのままでよい。プレーヤーという言葉だと、「ディスクを掛ける」というイメージがあるが、PCオーディオでは、原則としてディスクは再生しない。ディスク再生ではなく、ハードディスクやSDカード、SSD(ソリッドステートドライブ)などからの読み出しがメインだ。
パソコンは必要だが、WindowsでもMacでも大丈夫。形状もデスクトップ、ノートブックのどちらでもOKだ。ただし、CDを取り込むには光学ドライブが必要。そのためのソフトウエアも要る。
ネット接続は必須、楽曲の入手・管理に活躍
無線LAN(Wi-Fi)や有線LANなどのホームネットワークは必須ではないが、インターネットへの接続は要る。取り込み時にCDのメタデータ(曲名、アルバム名、演奏者などの情報)を入手する役目と、もう1つが配信サイトからハイレゾ音源データ(後述)をダウンロードするためだ。このようにして得た音源データはハードディスクやSSDに蓄積する。それらのデータを再生するソフトウエアも必要だ。そしてUSBケーブルで接続するオーディオデバイス「USB DAC(D/Aコンバーター)」が要る。
信号の流れを整理しよう。光学ドライブで取り込んだCDのデジタル信号は、メタデータを与えられ、ハードディスクなどに収容される。ネットから入手したハイレゾ音源データも同様だ。プレーヤーソフトが再生し、USBケーブルを通じてデータストリームがUSB DACに入力され、USB DAC内部でアナログ信号に変換。RCA端子などを経由し、アンプには2チャンネルのアナログ信号が入力される。
CDプレーヤーではそれ1台でCDからアナログ信号を得ることができるが、PCオーディオはこのように、関係する機器やインタフェース、ソフトウエア類が非常に多い。このことがPCオーディオに難しいイメージを与えているが、それは大した問題ではない。取り込みや再生のソフトウエアには定番があり、多くが無料だ。パソコン上でのソフトウエアの扱いにも特別な技は要らない。
CDを超える音質と利便性が最大のメリット
CDプレーヤーと比較してのPCオーディオのメリットの第一は、同じ音源でもCDプレーヤーより高音質で聴ける可能性があることだ。私の経験でも、数万円から10万円台のCDプレーヤーと比べるなら、音の良いUSB DACと組み合わせたPCオーディオの方が高音質な場合がある。
音質とは「細部まで見渡せる解像力」「音色の豊富さ」「音の密度感」などを指す。うまく組み合わされたPCオーディオでは、音楽再生でとても大事な音楽性の成分が濃厚に聴ける。
ではなぜ、CDはPCオーディオで聴くと音が良くなる可能性があるのか。それは、CDプレーヤーの再生では限られた時間でデータの読み込みと再生を同時にしなければならないのに対し、PCオーディオでは、それぞれを別々に処理することができるからだ。
CDプレーヤーは、このような信号の流れで再生する。(1)CDからピックアップにて等倍速でRF(高周波)信号を読み取り、(2)そこからデジタル信号を取り出してD/A(デジタル→アナログ)変換し、(3)アンプへアナログ音声を出力する。大変なのは、このすべてを同時にこなさなければならないことだ。
ところが、樹脂の射出成型品であるディスクには必ず偏芯やソリ、歪みがあり、読み取りエラーにつながる。CDプレーヤーでは再生時にそれをサーボ機構にて調整するわけだが、普及クラスの製品の場合、本来なら音の正常な処理に使われるべき電流が、ドライブ補正に"流用"されるので、多かれ少なかれ、音質はダメージを受ける。
これに対し、パソコンにリッピングした場合は、専用ソフトが前もって読み取った補正済みのデータを再生するだけなので、CDプレーヤーのようなサーボ電流による音質の劣化が理論上起こり得ない。
未体験の世界へ――ハイレゾ音源への誘い
加えて、PCオーディオの本当のメリットは、「CDよりはるかに良い音」が聴けることにある。それがハイレゾ音源の魅力、だ。
ハイレゾは、「より良い音を聴きたい」という人類の夢を叶えた「夢のオーディオ」だ。CDは利用が始まって以来、音が硬い、音の情報量が少ない、音が表面的…と音質上の問題点が数多く指摘されてきた。それはCD開発当時の技術で扱えた周波数の範囲やダイナミックレンジが狭いことに端を発していた問題だった。そこでハイレゾ化により、周波数とダイナミックレンジの壁の制限を一挙に取り払い、CDより圧倒的な高音質を獲得する挙に出た。
ハイレゾはどのくらい音が良いのか。CDのサンプリング周波数44.1kHzに対し、ハイレゾでは88.2kHz、96kHz、172.4kHz、192kHz、384kHzの系列が用意されている。標本化定理から96kHzの場合は、その半分の48kHzまでの音が再生範囲となる。この周波数特性は、人の可聴帯域(20kHzまで)を超えているのだが、実は、その超音波の部分こそ音質に効くのである。実際に楽器は20kHz以上の倍音を発しているからだ。
元筑波大学講師の大橋力氏(文明科学研究所所長)の研究によると、人間は、耳では20kHz以下の音しか聴けないが、体の表面でそれ以上の高周波を感じ、可聴帯域内の音と脳で合成するという。超音波は可聴帯域内の音の質を向上させるのだ。一方、量子化ビット数についてはCDは16ビットで、ダイナミックレンジは96dB(デシベル)だったが、ハイレゾは24ビット。つまり144dBと、オーケストラの最弱音から最強音までを余裕でカバーする。
PCオーディオで再生したCDとハイレゾを比較すると、違いは質感の面で明白だ。輪郭がしなやかになり、その内側に音の細かな粒子が蝟集し、密度が上がる。微妙な空気感、臨場感、伸びの良さも違う。ボーカルでは細かなニュアンスが断然違う。一言でいって、音楽が奏でられる生々しい雰囲気が熱く感じられる。
音質以外でも配信のメリットは大きい。CDに比べると、(1)物理的な形がなく流通過程も持たないので、サーバーにアップされたと同時に誰もが即、24時間ダウンロード購入できる。(2)アルバム単位でなく、1曲単位で試聴して買えるケースも多い。多くのサイトが試聴可能で、気に入った曲だけをセレクトできる。すでに日本のe-onkyo music、クリプトン、米国のHDtracks、スコットランドのLINN RECORDSなど、多くのサイトがハイレゾ配信を積極的に推進している。
PCオーディオでは、CDプレーヤーではできない快適な操作性が楽しめる。それがプレイリストだ。聴きたい曲をデータベースに登録された曲目から選び、リスト化し順番に再生するのだ。分かりやすくメタファーするとジュークボックスである。アルバム単位ではなく1曲単位で再生でき、好きな曲を好きな順番に聴けるのがPCオーディオの操作性のメリットである。
CDでも既存のCDプレーヤーより良い音で聴ける可能性、CDを圧倒的に超えるハイレゾの楽しみ、そして聴きたい曲の連続再生――。それは音楽からより大きな感動を得る最強の鑑賞法といえよう。
(次回は9月14日に掲載)
[ムック『これ1冊で完全理解 PCオーディオ』(日経BP社)を基に再構成]