ピカソやマティス、モディリアーニなど、数々の若き才能を誰よりも早く見抜いた美術商、ベルト・ヴェイル。歴史の陰に埋もれ、忘れ去られてきた彼女の人生と功績に、いま、やっと光が当てられはじめている。 「絵画の蒐集は株を買うのとは違う」──パリの美術商ベルト・ヴェイルは、1933年に出版した回想録でそう説いた。彼女は、当時の駆け出し美術コレクターたちが、彼女が契約した新進芸術家の作品の価値が上がるかどうかばかり気にかけていると嘆いていた。「あいにくこの手の輩は、自分の目に自信もなければ忍耐強さもない」と書いている。 ヴェイルは、美術に真剣に向き合っていないと判断した顧客は相手にしなかったが、後に蒐集家として名を残したガートルード・スタインとその兄たちのような買い手には大胆な買い物を勧めた。彼らは、1901年に彼女が開いた「B・ヴェイル画廊」の常連だった。当時のパリには、若い芸術家を専門に扱う画廊は