幼い頃、母はよく美術展につれて行ってくれた。西洋絵画の大家、ドラクロワ、パウル・クレー、ピカソ、セザンヌ、ルオー辺りはかすかに記憶に残っている。そのなかで特に印象深かったのがピカソのヴォラールコレクションの版画のシリーズである。ことにゲルニカのモチーフともなった「ミノタウロス」を巡る画は強烈な印象を与えた。 少女に手を引かれる盲た怪物。女を襲う怪物。傷つく怪物。ミノタウロスはよりグロテスクに描かれ、幼心に恐ろしかった。強姦シーンなどは子供にはナニが起きているかは判らぬが、とにかく狂気すら感じるようなおどろおどろした画像に畏れをなした。やがてピカソという人なりを知りその絵の意味を理解するにいたり、己の中に抱えた怒りと暴力と哀しみをかくも美しく描けるその天才に、素直に屈伏するしかなかった。 佐藤亜紀の新作『ミノタウロス』はもう数週間前に読み終えていた。なんじゃか、書評書こうと思いつつ。忙しかっ