やさしさとはなんだろうと、このごろ考えている。 考えているだけでは仕方がないので、本を読むことにした。『やさしさの精神病理』という1995年に出版された精神科医による著作だ。近年の若者の間で「やさしさ」が変容しつつあるという。従来のいわば「ホットなやさしさ」が敬遠され、「ウォームなやさしさ」にとって変わられつつあるとの話だ。 もう少し具体的にいうなら、従来の「ホットなやさしさ」は相手の気持ちを聞いて理解し、その上で寄り添おうとするやさしさだった。相手に積極的にコミュニケーションを取ろうとし、その「絆」を重視し、裏返しとしての「束縛」も受け入れるというやさしさだ。そこでは相手の気持ちに踏み込むことこそがやさしさだし、相手に気持ちを伝えることも大切だ。しかしそれは相手を傷つけ、自分が傷ついてしまう危険性も伴うものだ。主観世界のできごとが、他者にも同じ意味を持つと信じ、自己の判断で他者の世界に踏