1 親父の実家は宮崎県の南端で,志布志しぶし湾の小さな港町にある。わたしは毎年の年末年始に,数日間だけいる。齢80を超えた両親を気にかけてか,親父はこの頃,頻繁に宮崎へ帰るようになった。いまわたしは山陽新幹線の2号車にいて,夜更けに広島駅で降りて,真っ赤な在来線に乗り継いで山口県岩国市に帰る。親父は宮崎にいるそうだ。まぁ,会いたい訳でもない。 思えば今年,東京から離れるのは,正月の帰省ぶりになる。わたしは,旅行することをやめてしまった。 宮崎の祖父母は薩摩訛りがかなりきつくて,親父の通訳を交えなければ,会話の2割程度が理解できない。地域に独特の語彙や観念にきょとんとするのではなく,薩摩弁は仏語のように,リエゾンの夥おびただしい多用によって,話し言葉と書き言葉にとっても距離がある話法なのだ。リエゾンっていうのはI LOVE YOUの発音がアイラヴューになるみたいなことね多分。だから,まず発音