グレーの長袖シャツの下の胸はやせこけていた。深いしわが刻まれた肌に聴診器が触れる。「調子はどうですか」。永原診療会千本診療所(京都市上京区)の根津幸彦医師(59)は、訪問診療でベッドの患者に尋ねた。「先生、夜がこわい」。早川一光さん(91)がしゃがれ声で訴えた。 早川さんは、戦後間もない時期から堀川病院(上京区)の前身となる診療所の設立に関わり、西陣地域の医療の充実に力を注いだ。「わらじ医者」と慕われ、テレビドラマのモデルになった。老いや認知症を取り上げた著書も数多い。KBS京都のラジオ番組に28年にわたり出演し、講演も精力的にこなしてきた。 そんな早川さんが医師から患者になった。昨年10月に腰の圧迫骨折で入院し、思ってもみない病名を告げられた。血液がんの多発性骨髄腫。抗がん剤治療を続けながら、右京区の自宅で闘病生活を送っている。 多くの人をみとり、老いや死について語ってきたはずだっ