銀色の糸は、途切れ途切れ、真っ直ぐに、滑り落ちる。微かな発光は、ゆらゆらと静かに燃えながら、滑り落ちる。これを、雨が降る、という。 「雨は、銀色」 銀色の糸は、ただただ落ちる。時に私の指先を絡めながら。 窓から、ぼうっと庭の様子を見ていた。糸に絡まる木は光り、呼吸を感じさせる。濃い葉は、まあるい水滴を転がし、その水滴は、葉を中に閉じ込める。花の上で水滴は跳ね、揺れる花は、無表情。ただただそこにある風景。 濡れる。じんわりと、静まる。匂いは澄んで、空気はより透明になって、いや、青くなって、霞むのは、わたしの目ばかり。 落ちてゆきます。銀色の糸は。空気は。空は。落ちてゆきます。 山吹が見える。山吹の黄色には、灰色の空は似つかわしくない。青、というよりか少し水色がかった淡い空が似合う。 十三年前、丘の上の大きなお屋敷に住んでいたお姉さんは、淡い水色のワンピースを着て、黄色いガラス玉のネックレスを
九月十九日。妻の四十九日の法要を行った。参加者は、私と私の両親、妻の両親と、妻が生前嫌っていた叔母夫婦の七名だった。 妻がこの世を去るきっかけとなったのは、悪性の脳腫瘍であった。最初は、『できている箇所から恐らく良性』と言われていたものが、手術で摘出したところ悪性で、更に脊椎にも転移してしまった。病気に気付いてから、一年も経たないうちに逝ってしまった事になる。 私は三十歳であり(殆どの人がそうであろうと思うのだが)自分自身にこんな事態が降りかかってくるとは正直全く考えていなかった。だから、どういった態度で事態に向き合えばよいか分からなかった。質の悪い冗談、その程度にしか現実を捉えられていなかった。 妻自身には自分自身の詳しい状態を知らせないようにはした。暗示にかかりやすい性質の彼女に、それを伝えることは危険だと私が判断したためである。 私は妻が亡くなる日が来た時に後悔しないように、妻が望む
認識、時間、空間、それと人間が関わるいろんな事象について色々と悩んできました。それに少しずつ自分の中で確信のようななにか形らしいものを成そうとしております。それを言語という誰かとのためにあるものを使って、自分をかちこちと固定して、なんとか私という身体から引き離して、空中に浮かばせて、優しやの苦しみや、孤独の優しさから開放された、時間と身体のない世界に飛んでいってくれたらいいなと、そんなことを願いながらのろのろと書いていこうとおもっています。 真実とは何か、現実とは何か、正しさとは何か、神様とは何か、私とは何か、貴女とは何か、抱えその形を求めた末に、すべてがとろけ浮遊する。これはそのあとの世界について、妄想し、書き連ねているものです。 小説 短編 全年齢対象 Public Domain
浮き輪が誘う本棚に 昨日の本は見当たらない。 ベッドは浅瀬の高さ使用。 眼鏡を探す顔は起きてる。 パッチワークの毛布をたたむ。 今日の模様はカモメが表。 郵便屋さんもチャイム押す。 お待ち下さい もう少し。 伝票欄は潮風に喜ぶ。 波も寄せて返してる。 届いて気持ち茹で卵, 適度な味わい効いてくる。 黒電話と一緒に書き込む 32日のスケジューリング。 間違ってると誰も言わずに 素敵なカニが横に歩く。 背広が似合う背格好。 シートベルトはお休みの今日。 水色のパンツに履き変えました お風呂上りの小さいアイス, 齧って味を確かめる。 海の匂いは思い出す塩, 砂糖の隣に並べてる。 白でなくてもいいといって, メモ用紙を残してる。 不思議なくらいに甘い文字, 二つ折りで仕舞ってる。 しょうがないからとサイフを手に持つ。 バスのチケットお手軽に 替えるコインがキラキラする。 作りたての鍵ははしゃぐ。
宮沢いずみ ○言葉は駄目だ 結局、言葉はそれぞれの箱から出ることができない 形を手に入れたものは、その形に閉じ込められるだけである○ 少女はチェロを弾く。 弓を、弦を、心臓を、震わせる。 音はすべりながら、流れ落ちる。 それらは、僕の呼吸に染み込み、 僕の体の芯の方から一本の細い糸になる。 きゅっと絞られた糸をどこまでも引き伸ばして、そして手放す。 濡れたような、音。 意識はなくとも、降りかかる声で、背中から湿っていく。 声よりも、声。 言葉よりも、言葉。 と言ってしまったら、それは声でも言葉でもないのかな。 ○音○ だけどそれは、声よりも声で、言葉よりも言葉な、音。 それは壁にも椅子にも床にも、いたるところに沈み、脈打っている。 果たして消えていくのか、沈殿していくのか。 薄く色付いた酸素のようなそれは、 はたはたはた、と消えてくのかもしれないが、 それこそ、延々と、永遠と、 僕達の声よ
宮沢いずみ 白くて長い長い虫が、わたしの体の中を這っているのだと思っていた。シラスくらいの細さで、ニシキヘビくらいの長さで、半透明な白い虫が。 ぐしゅぐしゅっと体に響く音がする。腕にムズムズといった違和感が走る。何かが、何かが動いている。血管や脂肪の間をすり抜けて、時には押して、時には吸い上げて、何かが生息している。 それは「何か」であって、白くて長い虫かどうかは分からないけれど、わたしには、わたしの予想の中では、白くて長い虫だった。 数秒間の違和の後、すっと消えて、どこかに身を潜める。きっとわたしの体の養分を食べているのだろうと感じ、わたしはこの虫と共に生活しているというか、住まわせてるというか、蝕まれているというか、とても不思議な気持ちでおり、怖いとか畏れるとか、そういう感覚よりももっと前向きな、探検家が未知の密林に短剣ひとつで挑んでゆく気持ちでいた。 違和が発生する場所のほとんどは腕
よく前が見えないから雨だった。 左側が数多く雨に触れた。 傘の中は不思議で 少し肌寒いくらいの今日を知ることができた。 雨が数多あるから 全部同じに聴こえてならない。 そう気付けた今だった。 過去にするのはおかしいと思うけど, 柔いような気がしてならない 雨はまだ数多ある。 そんな雨の日だった。 先は良く見えない それぐらいは降る小雨になった。 薬局屋さんで出迎える 動物の橙色を探している私だった。 長靴は履きたくない。 それでもシャボン玉は好き。 そう複雑になっている。 大きくなったねといって欲しいのだった。 革靴は雨の中を進む。 ビニール傘の透け感を見ている。 向こうを来る人は 顔を見ないままに良いなと思った。 ぶつからないように斜めにした傘二つ。 戻すのを少しためらった。 雨の恋になれなかったとして, 気持ちは少し下を向いていたかもしれない。 柔いような気がしてならない 雨はまだ数多
心に直接、話しかけてみるよ。 コンコン コンコン 「そのドアはあかないよ」 コンコン コンコン 「いじわる少女がいるんだよ」 コンコン コンコン 「鍵をかけてしまってるんだ」 寂しく響くノックの音 コンコン コンコン 「どうしてそんなところにいるの」 コンコン コンコン 「暗い場所から出ておいで」 コンコン コンコン 「いじわるだなんて言わないから」 寂しく響く涙の音 コンコン コンコン 「明日がそこまで迎えに来てるよ」 コンコン コンコン 「長いかくれんぼはもうおしまい」 コンコン コンコン 「一緒にいるって約束するよ」 鍵が壊れたドアの向こう 重なり合った小指と小指が 君とぼくの最初の出会い 伝わる。
銀のホイール 迎え頃 雲の輪ゴムで 髪とめて 浅く履いてる サンダルと ゆらりゆらりと 待ち合わせ 踏んでペダルに 伝えてく 予定のところに 着くまでに 過ごした時間で 編んでいく 育てた分が 推進力 置いたままの 宙にサンダル 揃えたままに 雲通る 楽しそうな 青と一緒に 漕いで生まれる 銀の色 細身の傘が 気づかった 小雨混じりの 憩う頃 境目なくした 街並みに 出会い小さく 生まれてく オレンジ混じった 頃合に 開けていった バスケット 今日がつまって 蜜柑味 帰路の途中を 進んでく 置いたままの 宙にサンダル 薄くなってく 轍たち 漕いで生まれる 銀の色 過ぎ行く時間に 添って行く 置いたままの 宙にサンダル 揃えたままの 気持ち込め 雲の轍に 降り注ぐ 漕いで生まれる 銀の色 置いたままに 宙のサンダル 二人乗りの 軌道乗る 揃える明日 迎えに行って 銀のホイール 周ってく 置い
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