「事実を誤認している」「まことに不可解」。殺人、強制わいせつ致死罪などに問われたホセマヌエル・トレス・ヤギ被告(36)に対する広島高裁判決は、無期懲役とした1審・広島地裁判決を激しく批判した。来年5月に始まる裁判員制度に向けたモデルケースとして進められた1審の訴訟手続きへの批判は、同制度で求められる「裁判の迅速化」と「真実の究明」の両立がいかに難しいかを浮き彫りにした。 1審で8回にわたり行われた公判前整理手続きでは、検察側はヤギ被告の捜査段階での供述調書について取り調べ請求をしたが、弁護側はヤギ被告の供述は「任意性」で問題があるとして同意しなかった。地裁も立証してまで調べる必要はないと却下した。 この手続きについて、同高裁の楢崎康英裁判長は「公判前整理手続きは、充実した審理を計画的かつ迅速に行うもので、調書の任意性という争点を顕在化しないまま終結させたのは、その目的に反する」と断じた。