死ぬときに思い出す小説の一つ。 あれを読めば良かったとか、これがまだ途中だったとか、未練は必ずあるはずだ。どんなに読んでも足りることはないから。そんな後悔の中で、エピソードや描写を思い出し、読んでよかったと言える作品の一つが、『イギリス人の患者』だ。 映画が公開されたときだから、20年以上前に読んだのだが、いま再読しても美しい。詩的で情緒豊かに紡がれる、四人の男女の破壊された人生の物語だ。 あらすじはシンプルだ。 第二次世界大戦の終わり、イタリア北部の半ば廃墟となった修道院が舞台となる。そこで生活を共にするのは、看護婦のハナ、泥棒のカラヴァッジョ、インド人の工兵のキップ、そしてイギリス人の患者となる。人生のわずかな期間にすれ違う男女が、自身の半生を思い出す。 ただし、けっして読みやすい、ストレートなお話ではない。 時系列は無警告で前後するし、エピソードの粒度や解像度はバラバラだ。後になって
イギリスのラッパーであり詩人、ケイト・テンペストが2014年に発表した『Everybody Down』(※1)は、彼女の才能を広く認知させた衝撃作である。このアルバムは、ヘルス勤めの彼女とディーラーの彼氏、さらにはふたりの友人たちも登場する群像劇だ。高騰する都市部の家賃に苦しみながら、そこで何とか生きる若者の殺伐とした心情を描いている。セックスやドラッグなど、ヘヴィーな題材に関しても鋭い言葉を紡いでいる。 特に秀逸なのは、ディーラーとして働く彼氏の描き方だ。この彼氏は、底辺レベルの労働に就きながらも、家族にはまっとうな会社で働いていると嘘をつくなど、優しい心を忘れていない。さらに、本当は彼女にヘルスの仕事をやめてほしいが、生活費のほとんどは彼女持ちだから強く言えないという悩みも抱えている。そのうえ、彼女が本番もやってるんじゃないか?と想像して、悶々とする。そうした姿は非常に生々しく、日本に
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