新型コロナウイルスの感染者約6万人に対し、死者28人。世界の中でも低い死亡率で知られるシンガポールは、流行早期から積極的な検査と隔離で感染を封じ込めようとしてきた。その最前線にいたひとりが、シンガポール科学技術研究庁傘下の研究機関でPCR検査キットの開発を手がけた井上雅文さん。早期に高い精度の検査キットを開発したことが評価され、8月にはシンガポール政府から表彰を受けた。その背景にはどんな取り組みがあったのか。井上さんに聞いた。(西村宏治、写真も) ■SARS以来の経験が生きた ――シンガポールでの新型コロナウイルス対策の中心になっているPCR検査キットをデザインされたということで、8月にはシンガポール政府からも表彰されました。 光栄ですね。でも必要とされたから、つくっただけなんです。それに自分だけでは絶対にできなかった。病院の臨床医、遺伝子情報の解析を研究者など、仲間がいたからこそできた。