夏の間、サラエボから自宅のあるグラーツに戻り、検査と保養を兼ねてバカンスを過ごしたイビチャ・オシムは、ワールドカップ予選の最終段階を迎えるにあたり再びサラエボに落ち着いたのだった。 残念ながらボスニア・ヘルツェゴビナはプレーオフにも進めず、メッシャ・バズダレビッチ監督は予選敗退後に辞任し、ボスニア協会は新監督の選出に苦心している。オシムの長男で、かつて彼の後を継いでジェフ千葉の監督を担ったアマルが有力候補であるという。 ボスニアに戻ってからカタールも含めアマルが重ねた実績への客観的な評価と、その客観的な評価を下す対象が実の息子であることの心理的な葛藤に彼は苛まれている。 秋も深まり、これから冬を迎えようとするサラエボで、オシムが近況を語った。 「鹿島、川崎というのは順当なところだな」 ――元気ですか? 「ああ、何とかつつがなくやっているよ」 ――それなら良かったです。 「君は少しは痩せたの