布団が艶めかしかった昭和と共に失われたもの 布団の話から始めます。昭和には和風ラブホテル──「旅荘」──がありました。門をくぐると仲居(従業員)の女性が出迎えて、部屋へと案内してくれます。部屋番号ならぬ「楓」「椿」などと部屋名が付された扉が開けられると、卓袱台と畳だけが見えます。しばらくお待ち下さい、と中居が一旦引き下がります。 茶と茶菓子を盆に載せた再び中居がやって来ると、「ごゆっくり」と一言残して立ち去ります。何かを仄めかしているように感じてゾクっとした二人は、対面しつつ茶菓子を口に運んでしばし雑談します。それでもお互いにこれから起こる事が分かっているから、どこかしらじらしくてギコチないのでした。 そして、会話がふと途切れた時が「その時」です。相手の手に触れて見つめ合い、手を取り合って立ち上がります。襖(ふすま)を開けると、そこはいきなり非日常の時空。艶めかしい色の行灯に照らされて大き