〇大倉集古館 企画展『大倉コレクション-信仰の美-』(2022年11月1日~2023年1月9日)
大倉喜八郎が蒐集した仏教美術作品を中心に、信仰の歴史をたどり、そこに託された人々の祈りと美のかたちを紹介する。冒頭近くに出ていた『古経貼交屏風』は、むかしから私の好きな作品。小さいが印象的な肖像彫刻『法蓮上人坐像』(鎌倉~南北朝時代)も、どこかで見た記憶があった。おにぎり型の頭をした僧侶が、大きな目(玉眼)を開いて、やや上を見上げ、袖で覆った右腕を差し出している。法蓮は飛鳥~奈良時代の僧で、九州の英彦山や国東六郷満山で修行したと言われている。12年間岩窟に籠って修行したところ、倶利伽羅龍が現れて宝珠を吐き出したので、それを受け取った場面を表現している。そう聞くと、坐像が低い位置に置かれているので、倶利伽羅龍の気分になる。
1階は、中世の密教系の仏画が眼福だった。院政期仏画のぽってりした艶やかさと異なり、冷ややかで知的な魅力がある。『金胎両界大日如来像』2幅は宋風の顔立ち。寒色でまとめた表具もよい。『一字金輪像』(鎌倉時代)は褪色のせいもあって、地味だがスッキリとまとまっている。なお、かつては川崎正蔵の所蔵品だったという解説がついていた。
また、参考出品として、興福寺の釈迦如来十大弟子の一『優波離尊者立像』の絵葉書の拡大写真が展示されていたのも目を引いた。明治の廃仏毀釈で流出した際、大倉喜八郎が収蔵し、竹内久一の手で修理も施されていたが、大正12年(1923)の関東大震災で焼失してしまったという。残念だが、美術館や博物館に収蔵されたから安全ではないのだなあ、と思う。
2階は浄土教の美術を中心に。『融通念仏縁起絵巻』(室町時代)は、さまざまな護法神や天部が集まる場面でかわいかった。同館随一のスター・普賢菩薩騎象像も光臨。その隣りの『普賢十羅刹女像』(鎌倉時代)は、日本の女房装束の十羅刹女を描いたものだが、私には9人しか確認できなかった。違うかしら。田中親美による『平家納経』模本は、巻27、巻15、観普賢経など、女房装束の女性を描いたものが並んでいて、これも眼福。
最後に大幅の色鮮やかな仏画が並んでいて、1つは神田宗庭要信の『阿弥陀三尊来迎図』。黒い背景に薄めの彩色がシックでおしゃれだった。作者は寛永寺の仏画師とのこと。冷泉為恭の『山越阿弥陀図』ほかは古風な濃彩。下村観山の『不動尊』は紺地に金泥銀泥で描いたもので迫力満点だった。