見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

写す熱意/谷文晁(サントリー美術館)

2013-09-03 00:14:06 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 『生誕250周年 谷文晁』展(2013年7月3日~8月25日)

 やれやれ何とか最後の週末に間に合った。図録の序章「様式のカオス」の扉に「谷文晁と聞いて、これぞ彼の代表作という一点が思い浮かぶ人がどれだけいるでしょうか。」という興味深い問いかけが掲げられている。確かに。私は、長いこと、谷文晁という画家をうまく認識できなかった。この絵はいいなと思って、谷文晁の名前を覚えても、次にまた、この絵はすごいと思って出会う谷文晁が、あまりに別人すぎるのだ。「八宗兼学」とはよく言ったものだと思う。

 その「カオス」ぶりを表現したかったのかもしれないが、会場の冒頭には、山水・人物・仏画・洋風画・水墨・彩色など、技法も題材も、あらゆるタイプの作品が、所狭しと掛け並べられていて、呆然。ひとり骨董市かよ!と、笑いながら毒づきたくなった。

 興味深かったのは、サントリー美術館本『石山寺縁起絵巻』の修復後初公開。『石山寺縁起絵巻』は、昨年、滋賀県立近代美術館の『石山寺縁起絵巻の全貌~重要文化財七巻一挙大公開~』を見に行って分かったところによれば、全7巻が、鎌倉時代末期から江戸時代まで描き継がれて成立した、不思議な絵巻物である。谷文晁は、その掉尾の巻6-7を制作した。と思っていたら、これとは別に、箱書に「文晁筆」の墨書を持つ巻1-7の模本1セットが伝わっているのだという。図録の解説によれば、複数の弟子の関与が推測されるが「文晁筆に帰して良いもの」と考えられている。「絵巻が重く感じられるほど緑青や群青の岩絵具が贅沢に厚く塗り重ねられており」という解説がすごいなと思った。展示ケースの都合で、全場面公開とはいかなかったのは残念。

 本展の後半は、文晁をめぐる画人・文化人ネットワークに注目する。これも面白かった。私が、谷文晁と聞いて最初に思い浮かべる作品は、絵画的完成度とは全く別に、木村蒹葭堂の肖像である。抱一も若冲も応挙も、南畝も京伝も、みんな近いところにいたんだな。

 私は文晁が自然の景観を写した作品がかなり好きだ。山水図というより、近代の「写生(スケッチ)」だなと感じる作品がいくつかある。その一方、和漢の名画や西洋画を写した作品を見ると、彼にとっては、自然の景観を写すことも、絵画作品を写すことも、本質的に変わらなかったのではないかとも思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 双調平家物語の復習(おさら... | トップ | もっと権利の主張を/若者の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事