見もの・読みもの日記

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交錯するまなざし/アジアとヨーロッパの肖像(神奈川県立歴史博物館)

2009-02-23 23:08:29 | 行ったもの(美術館・見仏)
○神奈川県立歴史博物館 特別展『アジアとヨーロッパの肖像』(2009年2月7日~3月29日)

http://ch.kanagawa-museum.jp/

 昨年秋、大阪のみんぱくで開かれていて、気になっていた展覧会が巡回してきた。関東では、神奈川県立歴史博物館と同県立近代美術館(葉山館)が展示を分け合うという、ちょっと変わった開催形態を取る。

 まずは、横浜の神奈川県立歴史博物館から。「第1章:それぞれの肖像」では、アジア・ヨーロッパそれぞれの伝統に基づいて描かれた肖像を紹介する。中国清代の祖先像「五品文官」が正面性を強く意識する(日本、朝鮮の公的な肖像も同じ)のに対して、ヨーロッパの王侯貴族像は、やや斜に構えて、人体の美しさを強調する。あと、光の処理だなあ、違いは。

 「第2章:接触以前-想像された他者」は、アジアとヨーロッパが本格的に接触する前の他者の姿を示し、「第3章:接触以後-自己の手法で描く」は、16世紀以降、本格的な接触と他者理解の始まりを示す。ただ、この差はわずかなものに過ぎない。第2章に掲げられた正保2年(1645)長崎津開板の摺りもの『万物人物之図』には日本を含め、5×8=40地域の男女の姿が描かれているが、「たかさご」「しゃむ」「かぼじや」「とんきん・河内(ハノイ)」「らう(ラオス?)」など東南アジアの詳しさにびっくりした。さすが長崎。

 第3章の『訂正四十二国人物図説』は、享和元年(1801)大槻玄沢の指導のもと、山村昌永が西洋諸国の解説を書いた。ゲルマニア(ドイツ)は「ヨク格物致知医学諸技ニ通ゼリ」とか、フランスは「能ク文学諸芸ヲ努メ」「其王都ヲ把理斯(パリス)ト云フ、美麗繁華ノ地ナリ」とか、的確である。

 この展覧会は、アジアとヨーロッパの「まなざしの交錯」をメインテーマとしている。それはいいのだが、結果として、アジア内部の「まなざしの交錯」が見えにくくなってしまったように思う。第3章には、アイヌの族長たちを描いた『夷酋列像図』(蠣崎波響本の模写)や『琉球使節絵巻』や『朝鮮通信使江戸市中行列図』など、興味深い資料が展示されているのに、残念なことに、ほとんど解説が付いていない。メインテーマにとらわれて、もてあましてしまったのではないか、と想像する。ロナルド・トビさんの『「鎖国」という外交』によれば、朝鮮通信使の図像には、日本人の仮装行列と思われるものもあるそうだが、これはホンモノっぽかった。ヒゲ面だし、フリルも着ていないし。でも高官の輿のすぐ後に、どう見ても女性4人が馬に乗って従っていたのが不思議だった。

 「第4章:近代の眼-他者の手法を取り入れる」では、日本のほか、中国・インド・ミャンマーなどの初期洋画、商業美術を紹介。高橋由一の油彩『司馬江漢像』は印象的だった。意志の強そうな横顔である。後期には、原田直次郎の『高橋由一像』が出る。また、ヘレン・ハイド(Helen Hyde)というアメリカ人女性の木版画を初めて知って、あまりの愛らしさにベタ惚れしてしまった。

 県立近代美術館(葉山館)につづく。

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1 コメント

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ヘレン・ハイド (meme)
2009-02-24 21:57:51
同じくこの展覧会でヘレン・ハイドの
版画に惹かれました。
横浜美術館で開催中の展覧会にも僅かですが
ハイド作品ありました。
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