企業が「脱炭素」を果たすために不可欠な再生可能エネルギー。安価で安定的に調達できるかが、国や企業の競争力を左右する時代に入った。国際会議では2030年までに世界の再生エネ容量を3倍に増やすことになったが、日本は地形や気候条件、コスト面から欧州などに後れを取る。既に再生エネを巡る国内の争奪戦は始まりつつあり、出遅れれば未来はない。再生エネ小国ニッポンの現在地はどこなのか。企業はどう動くべきなのか。現場を追った。

 北海道の中央に位置する新千歳空港から車で約10分。視界を遮るものがない広大な土地で、心地よい風が頬に当たる。ここで2023年秋、次世代半導体を手掛けるラピダスの第1工場の建設が始まった。27年の量産開始を目指し、東京ドームを上回る面積の工場が24年末にも姿を現す。

ラピダスが北海道で建設中の工場。奧は新千歳空港。再生エネを積極活用する(写真=共同通信)
ラピダスが北海道で建設中の工場。奧は新千歳空港。再生エネを積極活用する(写真=共同通信)

 ラピダスがあえて都市部から離れたこの地に工場建設を決めた理由の一つが再生エネだ。風況が良く土地が広い北海道なら、大量に風力や太陽光などの再生エネ由来の電力を調達できると判断した。「再生エネを積極的に使い、グリーンな技術を生かした工場を実現する」。ラピダスの小池淳義社長はそう意気込む。

 東北、九州と並ぶ再生エネ適地と見られてきた北海道は、ラピダス進出によって企業からの注目度が一気に高まっている。

 再生エネがあるところに、巨大産業が立地する──。

 そんな時代がいよいよ到来したと悟ったからだ。

■連載「再エネ争奪戦」記事一覧
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・なぜ必要?今さら聞けない 再エネ調達の基礎知識
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・九電工や京セラ、動き出す離島のメガソーラー 「40円」でも利益少なく
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・曲がる太陽光・浮かぶ風力 日本一丸の敗者復活、新技術で再エネ立国

 実際、ラピダスの後を追うように北海道で拠点設置を決める企業は増えている。23年11月、ソフトバンクが苫小牧市に国内最大級のデータセンターを設置すると発表。事業総額は約650億円で、総受電容量は当初の10メガワットから、最終的に300メガワット超まで拡大する。電力の多くを再生エネで賄うことを目指す。今後、ラピダスに部品を供給する周辺産業の進出も相次ぐと見られる。

 電力広域的運営推進機関によると、北海道の産業用その他の需要電力量は24年度の78億キロワット時から33年度に104億キロワット時に増える見込みだ。需要の低迷もしくは横ばいを見込む地域もある中で、伸び率は全国1位。

 道庁によると、20年度に62件だった企業誘致数は22年度に100件近くに増加。その後も「再生エネの利用を念頭に進出を相談する企業が増えている」(道庁担当者)。前のめりで動くのが半導体や自動車関連、さらにデータセンターを手掛ける企業だ。いずれも産業規模は大きく、生産、稼働において莫大な電力を使う分野だ。

 国による再生エネ整備に向けた動きも大きく前進。ラピダスの進出が決まった3カ月後、経済産業省が主導する洋上風力プロジェクトで、北海道の5海域が一斉に「有望な区域」に格上げされた。地元の同意を得て、次は「促進区域」に認定され、公募で選ばれた企業が事業化に向けて動き出す。日本は40年までに洋上風力を最大45ギガワット(原子力発電所45基分に相当)に拡大する目標で、そのうち最大となる3割を北海道が占める。

“計画前の発電所”を押さえる

 「30年以降になれば、再生エネなどクリーンエネルギーの争奪戦が本格化すると見る企業は多い」。経産省幹部はこう話す。

 足元では再生エネは使い切れないほどあるため、「今後も余る」と高をくくる企業がある一方で、先進企業は既に、相対によるPPA(電力購入契約)を念頭に、設置が計画される再生エネ発電所や計画以前の段階から発電事業者にアプローチする動きも活発化させている。

 企業が先んじて、再生エネを取りに行くのは、取引先や市場からの要請が強まっているためだ。

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