ホロコーストを生き延び、戦後にアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人の建築家の壮絶な半生を描いたドラマ作品。
白人の偏見や価値観が、主人公ラースローのアイデンティティを脅かしていくさまを丹念に描いている。
登場人物の描写がそれぞれ生々しく奥深い。
アッティラは、ユダヤ人であることを捨て、名前を変え、ラーズローに親切に接するようでどこか冷たい。
アッティラの妻のオードリーはラーズローを軽蔑し、あらぬ告発をする。
アフリカ系アメリカ人のシングルファーザー、ゴードンはラーズローとヘロイン中毒になりながら一緒に暮らすようになる。
そして、ヴァン•ビューレン。
典型的な白人の特権階級であり、肉体的にも精神的にもラーズローを貪る。
姪のジョーフィアはのちに夫ともに"祖国"エルサレムへ帰る。
妻エルジェーベトが特に複雑な心を持っている。
アメリカで壊れていく夫ラーズローを献身的に愛しつつ次第に憎むようになり、だがやっぱり心から愛している。
2人が危うく複雑に支え合っていく姿は心に残る。
冒頭のさかさまの自由の女神像シーンがある種ハイライト。
つらい過去を持ったラーズローがアメリカの腐敗に翻弄され、自分の一番大事な部分を喪いそうになる。
自由の女神のカットは物語の展開を暗示する。
終章では、ラーズローがデザインにこだわっていた理由が明かされる。
200分以上の長尺な作品ではあるが、圧倒的なドラマ性をもったストーリー、そして見事な演技、映像、音楽などによって、熱量高く一気に描き切っている。
エイドリアン•ブロディの演技は圧巻の素晴らしさ。
フェリシティ•ジョーンズも良いし、ガイ•ピアースも最高。
撮影も美しく、劇伴も壮大で魅力的。