USAIDの閉鎖を仕掛けたイーロン・マスク氏(写真:ZUMA Press/アフロ)

米国の対外援助などを担ってきた米国際開発局(USAID)の事実上の閉鎖が、世界に波紋を広げている。特に、ロシアやミャンマーなど報道弾圧をしている国々で活動する独立系メディアが存亡の危機に立たされている。独裁政権や軍事政権の不都合な真実を追求してきたメディアが消え、国家によるプロパガンダとフェイク情報のみが横行しかねない悪夢のような世界が訪れかねない。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 日本人高校生も被害にあったとされているミャンマーを拠点とした特殊詐欺事件に関連し、2月15日、ミャンマー語で運営されている、ある独立系のメディアサイトが詳細を報じた。

 そこには、監禁され強制的に犯罪に加担させられていたエチオピアやフィリピン、ブラジル人などの被害者が、中国人のボスの命令に背くと電気ショックを受けたり、殴られたり暗い部屋に1週間閉じ込められたりしたことなど、凄惨な拷問の様子が克明に記されている。

USAIDの閉鎖に抗議する人々(写真:AP/アフロ)

 この報道から9日後の24日、ロシアの独立系メディア・メドゥーザ*1は、ウクライナ侵攻3年のタイミングで、戦禍のウクライナや、ロシア兵捕虜などの生々しい写真を掲載。頭部を縫合した傷跡のあるウクライナ兵や、ハルキウの民家で戦闘により死亡した男性の傍に立つ隣人など、戦争のリアルを伝えた。

*1メドゥーザのサイト(リンク先にはショッキングな画像も掲載されいるのでご注意ください)

 2つの報道機関には共通項がある。1つは、権力を監視するという報道機関としての使命を果たすために、ロシア当局やミャンマーの軍事政権に不都合な事実も追求してきていること。そのためそれぞれに迫害を受け、本国を離れ国外からの取材活動を余儀なくされていること。

 そしてもう1つは、これまで取材に必要な資金の多くを米国際開発局(USAID)に頼ってきたということだ。

 トランプ氏が大統領に返り咲いてから、いわゆる政府効率化省(DOGE)が連邦政府縮小という名目のもとに、USAIDを事実上の閉鎖に追い込もうとしてきたことは周知の通りだ。米議会による2025年度の対外援助予算には、先の2団体のような独立系メディアへの2億6800万ドル以上もの支援が含まれていた。