生成AIへの期待値の変化 DeepSeek台頭がマーケターに突きつける課題とは?Marketing Dive

AI 生成の広告に対する反発が続いた1年を経て、マーケターはパフォーマンス結果重視で非難を受けにくいバックオフィス機能に注目し始めている。

» 2025年02月08日 08時00分 公開
[Peter AdamsMarketing Dive]
Marketing Dive

 2025年に向けて、マーケティング業界におけるAIの位置づけが変化している。当初の熱狂から、より実用的な「裏方の機能」に注目が集まっている。具体的な成果が求められる中、DeepSeekのような新興勢力がコスト削減圧力を高めてもいる。マーケターは、最新技術の導入と失敗リスクのバランスに苦心している。

※編注:本稿は「2025年のマーケターが『生成AIでテレビCMを作る』よりも優先すべきことは?」の続きです。

マーケティング領域における生成AI、最も期待される使い道は?

 生成AIは、最終的なクリエイティブ作品を完成させるにはまだ力不足かもしれない。しかし、制作プロセスの他の側面に与える影響は、2025年にかけてさらに拡大するだろう。特に、ブリーフィング、リサーチ、ストーリーボード作成といった初期段階の業務は、マーケターが限られた予算を最大限に活用する必要に迫られる中で、AIによる支援の恩恵を受ける可能性が高い。

 「現在、過小評価されているのはプロセスの部分だ」と、PadSquadのストラテジーヘッドであるランス・ウォルダーは語った。

 ローカライズ対応や異なるメディアフォーマット向けのアセット調整といった分野は、生成AIの活用が期待される領域であり、MetaやAmazon、Adobeといった大手テクノロジープラットフォームも、AI製品のラインアップを拡大することでこの領域に取り組んでいる。例えば、「Adobe Firefly」が最近発表した「Bulk Create」機能では、数千枚の画像をワンクリックで編集できる。背景を置き換えたり、画像のサイズを変更したりすることで、手作業による数十時間の労力を節約できる可能性があるのだ。

 デジタルエージェンシーRazorfishのCEO、ジョシュ・カンポ氏「今日、特に適応に関して多くの作業が行われている。データを処理し、もっと迅速に多くのアセットを適応させることができれば、消費者にとってよりパーソナライズされた体験を提供できるはずだ」と語った。

 最新のAI技術も、キャンペーンのターゲティングや最適化を支援する可能性がある。AIは、大規模なデータセットからパターンを特定し、広告のテスト対象となる合成オーディエンスを提供することができる。ブランドがサードパーティーCookieへの依存から脱却しようとする中でも、精度の向上は依然として最優先事項だ。ただし、2024年にGoogleがサードパーティーCookie段階的廃止計画を撤回したことで、状況は複雑になっている。

 「最も成長が見込まれ、実際すでに大きな成長が進んでいる分野は、オーディエンスターゲティングの領域です」と、ディジョルジオ氏は述べる。「こうしたアプリケーションは、大規模で複雑なデータセットを入力として扱うため、多くの人が比較的抵抗なく受け入れやすいのです」

 米インタラクティブ広告協会(IAB)の調査によると、メディアバイヤーの10人中8人が何らかの形で生成AIを探求しているが、技術を活用するため、組織的かつ協調的にリソースを整えているのはわずか3分の1にとどまる。マーケターがAIを活用して生産性向上を実現するには、単にツールを試すのではなく、戦略的な取り組みが不可欠となる。そうしなければ、AIが生み出す無数の選択肢に振り回されることになりかねない。

 「ストーリーを伝えるために何十種類ものバリエーションを作成できるからといって、その全てを活用すべきとは限りません」と、PadSquadのウォルダー氏は指摘する。「重要なのは、これらのツールをいかに効率的に活用するかという点です」

選択肢が多過ぎる

 マーケターが生成AIをどのように活用すべきかを検討する中で、利用可能なプラットフォームやパートナーの数は急増している。「圧倒される」という表現を使う専門家も多く、2025年には業界特化型の完成度の高い生成AI製品が市場をリードし、不十分なものは淘汰されていくと予想されている。また、AIモデルのトレーニング方法について透明性の高いプラットフォームは、リスクを回避したいマーケターからの支持を得る可能性が高い。

 「次の12カ月間で最も難しいのは、玉石混交の中から本物を見極めることです」と、ウォルダー氏は述べる。

 生成AIの波の恩恵を受ける準備が整っているのは、デジタル広告の大手企業だ。彼らはその規模と洗練された技術を活用し、予算が限られているブランドや、パフォーマンス重視のブランドに向けてサービスを展開している。こうしたブランドは、高額なAIモデルを利用する余裕がないか、大量の広告アセットを効率よく生産することを最優先としている。実際、Metaの生成AIツールは、2024年第3四半期だけで100人以上の広告主に利用され、1カ月間で1500万件以上の広告が作成された。また、Amazonも同様の成長を遂げており、現在では動画、音声、テキスト、画像生成ツールを備えたAIソリューションを提供している。

 「中小企業は、こうしたツールを積極的に活用するようになるでしょう。彼らのビジネスを支える存在になるからです」と、Anomalyのネフ氏は述べる。「AIがコスト削減に貢献し、事業規模以上の影響力を持てるようになるのです」

 その一方で、DeepSeekの急成長は、生成AI市場がいかに急速に変動しうるかを示している。中国のスタートアップである同社は最近サイバー攻撃を受けたものの、一部のブランドはすでにその活用を模索している。また、「Wall Street Journal」によると、米国の競合企業が価格を引き下げることを期待する声もある。消費者の関心も高く、Sensor Towerのデータによれば、DeepSeekアプリはアプリストアのランキングで急上昇し、Perplexityなどの新興企業を上回るダウンロード数を記録した。総ダウンロード数は300万件を超え、そのうち80%が直近1週間で発生しているという。

 DeepSeekのようなソフトウェアに対する興奮と不安は、生成AIが多くのブランドにとって両刃の剣であることを象徴している。知的財産を保護し、失敗した場合に失うものが多い大規模なマーケターにとって、大規模言語モデルや機械学習アルゴリズムに貴重な資料を提供することは、プラットフォームに関係なく依然として困難な見通しだ。

 「所有権こそが最も重要な課題です。しかし、正直なところ、まだ明確な答えは出ていません」とウォルダー氏は語る。「例えば、数十億ドル規模のブランドが、自社の戦略やブランドの核心部分をAIに渡してしまう可能性がある。それをどう保護するかが問われています。各社の法務部門が慎重になるのも当然のことであり、これらのツールがどのような環境下で運用されるのかをしっかりと管理する必要があります」

 一方で、AIモデルが他のアーティストや企業の作品を無断で模倣してしまう可能性も、広告業界を含めさまざまな分野で懸念されている。Anomalyのネフ氏は、このジレンマを端的に表現した。

 「どこも、“最初に訴えられる大手ブランド” になりたくはないのです」

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