ECD新作『TEN YEARS AFTER』&ライブ盤『ライブ30分』同時販売開始!
ECDがニュー・アルバム『TEN YEARS AFTER』をドロップ! 前作『天国よりマシなパンの耳』よりも、更にラディカルなECD節を堪能出来るヒップホップ・アルバムが到着しました。そして、大人気の「最近」シリーズの新作も同時販売開始。2010年1月29日に代官山LOOPで行われたイリシットツボイとのライブを収めた『ライブ30分』。MCまでひっくるめて収録されている本作は、とにかく強烈! 緊張感とグルーヴに溢れ、最初から最後まで全く気が抜けません。今のECDの作り出す音を、異なる角度の2作品でどうぞ。
INTERVIEW
前作『天国よりマシなパンの耳』を初めて聴いた時は、鳥肌がなかなか止まず、これは間違いなくECD史上最高の名作になるだろうと確信した。そしてその確信は、衝撃の余韻が残る9ヶ月後の今、早くも揺るがされている。
今回彼がリリースした新作のタイトルは『TEN YEARS AFTER』。アル中で入院していた十年前までの破滅的で自堕落な日々とその代償を、表現者として、労働者として、一家の主としての今の生活を、予測不能な十年後の不安を、なるべく生々しく具体的な描写で歌詞に綴り、今まで以上にECDという人間に踏み込んだ内容となっている。曲調も、HIP HOP以外にも様々なジャンルの音を取り入れた前作から一転、最初から最後までHIP HOPを一貫している。
今年50歳を迎えたECD。ラッパーとしては異例の年齢かもしれないが、反骨の姿勢を崩さない彼の音楽は絶えず、幅広い年齢層に求められ続けている。今後ECDという人を語る上で、必要不可欠な作品になるであろう今作『TEN YEARS AFTER』について、彼が生活の基盤とする下北沢まで話を伺いに向かった。
インタビュー&文 : 水嶋美和
隠そうとすればするだけ詮索される
——前作『天国よりマシなパンの耳』から9ヵ月しか経っていないんですね。リリースして、またすぐ作り始めたという感じでしょうか?
前作のリリース時には作り始めていました。8月〜10月ぐらいで僕の作業が終わって、そこから半年ぐらいかけて坪井君が仕事の合間にトラック・ダウンなどの作業を進める感じなので、僕の作業が終わってからいつもこれくらいの間が空きます。
——リリースまでの間にも次々に新曲がMy Space上にアップされていましたが、それによってCDが売れなくなるという懸念はありませんか?
インターネットでチェックしてそこで終わっちゃう人は終わっちゃうだろうし、出し惜しみするよりは聴けるものは聴いてもらって、欲しいと思った人には買ってもらえれば。誰かが言ってたんだけど、人の物欲は無くならないから、フリーで手に入るものが増えたからといって物になったものを買いたい気持ちは無くならないと思う。消費者としての自分自身も、音楽のフリー・ダウンロードはよくするけどCDを買う量は減らないし、そういう人は他にもいるだろうと思うので、そんなには気にならないです。
——前作はジャズ、サイケ、ロックンロールなどのいろんな色の曲が1枚にまとめられている印象でしたが、今作は一貫してHIP HOP一色ですね。
ここ2、3年でまたHIP HOPばかり聴くようになって。その前は下手したら10年ぐらい熱心に聴いてなかったかもしれない。
——それは最近のHIP HOPに何か変化があったからですか? ECDさん自身の波で?
最近またHIP HOPが変な音楽になってきてるなと思って。僕が最初に聴き始めた頃のHIP HOPって音楽としてはかなり奇形で、その後段々とソフティシケートされて聴きやすい音楽になってしまったんだけど、最近のサウスのHIP HOPとか聴いてると、また変な音楽に戻ってきた気がする。その辺を自分でもやりたかったので、『天国よりマシなパンの耳』を作り終えたぐらいには、次はHIP HOP色の濃いものを作ろうと決めていました。
——歌詞も前より描写が具体的で生々しくなった気がしたんですが、これは意識して?
意識しています。今回は歌詞というよりも、言いたい事をそのままラップに乗っけて、なるべく生々しく、
普通に喋ってる感じにしようと。
今まではちゃんと加工して歌詞に落とし込みたい気持ちが強かったんですが、最近の日本語ラップにそういう人が多いので、彼らの影響を受けました。
——今までもそうだったんですが、今作は更に踏み込んだECDの日常を覗いている様な気がしました。
そういうのがラップなんじゃないかなって最近思いだして、そういうものもやっておこうって感じです。
——曲単位の話になりますが、「M.I.B.」は聴きながら冷や汗が出ました。あの万引きで捕まったエピソードは実話ですか?
全くの実話です。
——5歳で初めての万引きというのも?
それも本当。でも、その後癖になったとかではなくて、駄菓子屋さんで純粋に欲求に負けて。
——「透明人間」の職質中の警察とのやりとりも?
一昨年の秋にあったことです。『天国よりマシなパンの耳』に入ってる「職質やめて!」はもうできてました。
——…厳しい過去が多いですね。そういうのってあまりいい思い出では無いと思うんですけど、それを歌詞にして公言してしまうのはなぜですか?
アル中で精神病院に入院したなんてことは隠そうとすればするだけ詮索されるだろうと思ったし、たとえばクラブなんかで酒をすすめられて断るのにいちいち事情を説明するのも面倒臭いだろうなと思って。とにかく常にばれたら困ることなんかないという状態に自分をしておきたい。でも「あの頃楽しかったなあ」って振り返ってる曲もあって、「Time Slip」は一番酒飲みまくって自堕落だった生活を送っていた頃を振り返って、今思うとあれはあれで良かったな、懐かしいなと思いながら作った曲です。
——8曲目の「Tony Montana」では「金」「車」「女」「HIP HOP」「銃」「薬」と悪そうなキ—ワードが並んでいますが、Tony Montanaとはどういった人なんでしょうか?
アメリカでコカインを売りさばいてのし上がったギャングで、アル・パチーノ主演で映画化もされてる人。向こうのギャングスタ・ラップのアイコン的存在になっていて歌詞にもよく登場するし、その映画「Scarface」はラッパーだったら一度は見てないとおかしいぐらい。
——歌詞の中で「憧れていた」とありますが?
実際に憧れたっていう事は無いんだけど、向こうのラップやってる連中が憧れる気持ちも分からなくもなくて、アル中になる前まではそういう破滅的な人生を送りたい気分だった事もある。向こうの連中も本気でそうなりたい訳ではなくて、やばい事やって金儲けて成功して好き放題して、最終的には裏切られて殺されるんだけど、それでもくすぶってるよりはマシだろうという、象徴としてのTony Montanaなんだと思います。
40代以降の人生は自分には無いものと思っていた
——全体的に過去についての曲が多いですが、タイトルの『Ten Years After』とは10年前から10年後の今という意味なんでしょうか?
今から10年後と、二つの意味ですね。
——10年前というと?
アル中で入院していた時です。ちょうど10年酒飲んでないのかと思った所から作り始めました。タイトルは最近になって付けたけど。
——なぜそんなに飲んだんでしょうか?
きっと表現する事に関わる為に飲んでいたんだと思うんです。ある程度狂気に近付けていないとそういう事は出来ないと思っていて。だけど入院してお酒を絶たなくてはならない状態になって、それなら音楽や文章も辞めなくてはならないから、退院して一年ぐらいは本当にひっそり生きていこうと考えていました。音楽なんてやったらまた酒飲んでしまうだろうし、40代以降の人生は自分には無いものと思っていた。
——そんな心境から、どんなきっかけがあって音楽活動を再開したんですか?
退院してから一年後ぐらいにアルバム制作やライヴの誘いがあった。その時は全然その気では無かったんだけど、退院して今の職に就いて給与16万ではさすがに暮らしていくのはきつかったので、副収入の感覚で。小説を書き始めたのも同じ理由です。
——表現欲求があったというよりも、生活の為なんですね。
表現欲求は後からですね。それよりも何かやらないとって気持ちの方が強かった。
——今から10年後、想像できますか?
音楽活動を再開して順調にやり始めた頃でも、ここ最近の結婚したり子供を持ったりって言う展開は想像できなかったんだから、こればっかりはわかんない。そうしようと思ってしたものでもないし、そういうものなのかもしれない。人生って。リリースも頻繁で、ライヴも月2〜3本あってっていう、このままの調子で活動を続けていきます。
ECD Discography
『最近のリハーサル』
ECDの「最近」シリーズの第二弾。良く聴くと、ライブに向けて楽曲練ってます(笑)。まんまリハーサル。でもテンションは高いし、行く時は行くし、やっぱりこの人たち凄いです。音も上ものの抜けがしっかりしており、とても聴きやすい。最初のMC&PUSHERのライムは、セッションなのに、凄まじい説得力です。
『最近のライヴ』
ECDの「最近」シリーズの第一弾。2006年5月27日の新宿LOFTでのライヴ。既存の曲と思いきや、がんがんトラック変わってます。イリシット・ツボイとの超絶グルーブに驚くなかれ。これが、成熟の味、ベテランの破壊力です。爆音で聴いたら、スピーカーも脳みそもぶっ飛びます!!!
『天国よりマシなパンの耳』
リリック、リフ、ともにキャッチーでありながら不穏! アブストラクトかつ超POPな、捨て曲全く無しな全10曲。音楽HEADZなら素通り出来ない超問題作です。「職質やめて! 」の衝撃は体感すべきです!
『言うこと聞くよな奴らじゃないぞ』
反戦デモのために作った楽曲は、ECDの間違いなくクラッシクな名曲。ハードコアなリリックと女性コーラスのイエイエ・ビートが融合し、聴いた事のない衝撃を与えてくれます。さらにイリシット・ツボイを迎えたLIVE盤で、ECDの破壊力は頂点を迎えます。
『失点 in the park』
メジャーとの契約を終了し、ECD自身で全てを製作した第一号アルバムにして金字塔を打ち立てた作品。ここから始まった、ECDの現在。ライブでもおなじみ「貧者の行進」は、音楽を愛する全ての若者達のアンセム。
『FINAL JUNKY』
ECD不朽の名作。ECDが興した自主レーベルの名前にもなったアルバム。攻撃的ながらシンプルなトラックの上で淡々とリアルな現実をラップし「関係ねー!」と叫ぶあまりの凶暴さは、アンダーグラウンドにこの人ありと言われる確固たる存在まで押し上げたのだ。
『Crystal Voyager』
様々な音楽シーンを貪欲に吸収するECDが、イルリメとの共作アルバム『2PAC』を経てリリースした、メジャー時代を含めると通算10枚目となるアルバム。あらゆるジャンルとシンクロし続け、もはやHIP-HOPという音楽ジャンルだけでは収まりきらなくなったかの様なカオティックな内容だが、ECDの冷静な眼差しと、本質への言及は終始アルバム全体を貫いている。
PROFILE
1960年生まれ。87年にラッパーとして活動開始、96年、日比谷野外音楽堂でおこなわれた伝説的HIP-HOPイべント「さんピンCAMP」のプロデュース。その後来る日本のHIP-HOPシーンの拡大と定着への貢献は計り知れない。03年からは自身のレーベルから作品を発表している。2008年2月にリリースされたFUN CLUBが目下の最新作だが、音楽業以外にも2004年に初となる著作「ECDIARY」を発表。2005年に刊行した「失点・イン・ザ・パーク」は社会的に大きな反響を呼び、音楽リスナー以外にもその存在を知らしめる事となる。2007年に「いるべき場所」を上程。近年の日本音楽シーンではますます注目される存在として、その影響力は計り知れない。