NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、初回から女郎の全裸遺体を映し出すなど、話題を呼んでいる。コラムニストの河崎環さんは「アメリカで高く評価された『SHOGUN 将軍』と比べると、NHKの大河ドラマは、日本国内の視聴者を第一の対象とし、史実や繊細な視聴者の『お気持ち』への忠誠を誓わされているために冒険がしづらい。日本の創作をつまらないものにしているのは、実は視聴者も共犯なのではないか」という――。
NHK放送センター
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NHK大河の覚悟問題

年明けから放送開始したNHK大河ドラマ新作。2025年は江戸の吉原を舞台に、いわばポップカルチャーの名プロデューサーとして活躍した蔦屋重三郎の生涯を描く「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」だが、すでに1月5日の初回放送「ありがた山の寒がらす」から病死・餓死した女郎たちの遺体が積み重ねられたシーンとして女性の複数の裸体を放送するなど、「NHK大河の覚悟問題」とも呼べる大きな話題を提供している。

日曜夜8時台に家族で見ていたようなSNSユーザが、放送中からその衝撃を投稿。放送後には出演者による裏話、放送関係者による制作環境や制作意図の分析、史実との照合などさまざまな発言が出揃い、SNSやウェブ記事、ニュース記事で賛否さまざまな感想が述べられた。

このプレジデントオンラインでも関連記事(だからNHKは「女性の全裸遺体」をあえて映した…大河のお約束を破壊する「べらぼう」は傑作になる予感しかない)が公開されているが、大河ドラマで女性の全裸が「遺体として」「後ろ姿のみ」であるにせよ放送されたことが、どれほど日本人の度肝を抜くことであったか、その反応の方が興味深くもある。それだけ、大河の視聴者は数多く、思いも強い。ある意味エンタメ擦れしていない部分もある。視聴者の幅が広く、層も厚く、大河がこれまでの歴史でしっかりと培ってきた正統派イメージへ高い期待や関心が寄せられていることの反映だ。

当初は「大河で裸が出てきてびっくりした」「NHKはどういうつもりなのか」と、女性の全裸が放送された事実一点のみで不快感を露わにする向きもあった。また、亡くなった花魁役を演じた元宝塚歌劇団女優・愛希れいかさんだけでなく、打ち捨てられたその他の遺体役としていわゆるセクシー女優に出演を依頼したNHKの判断を、「グロい」と揶揄する批評もあった。

だが、すでに第3回まで放送された現在、初回の女性全裸放送への衝撃はかなり沈静化し、ストーリーは着々と進んでいる。映画やドラマなどの撮影現場において役者と製作者の意思を調整し、役者の権利を守るインティマシー・コーディネーターを入れて7時間に及ぶ真剣かつ誠実な撮影を行ったとされるNHKの判断を「新しい大河を作っていこうという制作者の覚悟が表れている」として、肯定的に評価する声が多いように思う。