「チケット」からファン同士のコミュニケーションを実現 新サービス『KLEW』が誕生した背景とは

 アミューズの新サービス『KLEW』が誕生した背景

 株式会社アミューズが新しいサービス / 事業 / IPを生み出す場として設立した株式会社Kultureが、新たなサービスとして『KLEW(読み:クルー)』を立ち上げた。

 『KLEW』は「あらゆるチケットを、入場券からコミュニケーションツールへ進化させる」というコンセプトを元に、公演に出演するアーティストとその公演に来場するファン、或いは同一公演のライブチケットを保有するファン同士だけがデジタル上でコミュニケーションを取れる国内初(※1)のプラットフォームだ。

 ライブはファンの熱量が最も高まる瞬間であるにもかかわらず、アーティスト自身やマネージメントが来場者を知り、関わることや、ステージ以外の場所で来場者だけに何かを伝えることが難しい状況だったことを受け、来場者が必ず持っている「チケット」を「アーティストとファンやファン同士のコミュニケーションのきっかけ」として活かすことを目的に『KLEW』は開発された。

 『KLEW』は上記の課題を解決するため、AIを活用したチケット認証機能を実装。ユーザーは手元にあるチケットを『KLEW』で読み込むことで、出演するアーティストとチケットを持っているユーザーだけに提供され、ライブ前・ライブ後にデジタル上でコミュニケーションできる「チャンネル」を使うことができる。さらに、どのようなユーザーが公演に来るのかといった情報はアーティスト・マネージメントに還元されるという。

KLEW 利用フロー

 今回はそんな『KLEW』を立ち上げた株式会社Kultureの江戸原允文氏にインタビュー。アーティストを見守る中で生まれた課題意識がどう『KLEW』につながったのか、そして実際のアーティストの反応や、ライブで使ってみた印象とは?詳しく話を聞いた。

ライブに来るファンの情報がない…そんな問題意識から誕生した「KLEW」

ーー前回、代表の白石(耕介)さんにインタビューしてから2年が経ちました。あの日から「KLEW」のリリースに至るまでのハイライトを教えてください。

江戸原:前回インタビューいただいた時は、Kultureが立ち上がったばかりのタイミングで、まさにゼロから組織も事業も立ち上げるという時期でした。

 そこから、アミューズからの異動やエンジニアの採用などで組織を強化しつつ、NFTを保有するウォレットである「A Wallet」の開発や、次世代型のファンクラブとしてのDiscord活用などのtoC向けの事業、加えて最近では舞台装置としてワイヤレスでコントロールできる自動制御型のLEDパネルを作るなど、現在は多岐に渡るプロジェクトを展開しています。ただ、入社してから自分はずっと「KLEW」のことを考えていました。

ーー「KLEW」の立ち上げにおいては、どういった問題意識があったのでしょうか?

江戸原:Kultureにジョインする以前、自身がアーティストのマネジメントをしていた時から感じていたのが、最も大事にすべき「ライブに来てくれるお客様のこと」をどうしてアーティストやマネジメントは知ることが出来ないのか、ということでした。そこから、ライブに参加するために絶対に必要な「チケット」を入場券からファンコミュニケーションへ進化させることが出来たら、アーティストにとってもファンにとっても価値のあるサービスが提供できるのではないかという着想を得た形です。

ーーファンの属性がわからないという課題に対して、「コミュニケーション」にまつわるサービスを展開することとなったのはなぜですか?

『KLEW』を立ち上げた株式会社Kultureの江戸原允文氏

江戸原:実は結構紆余曲折がありました(笑)。ライブ音源を「公式のブートレグ音源」としてNFT化すれば違法アップロードの抑止やアーティストの収益向上に貢献できるのでは?とか、ライブハウス全体を盛り上げるために、来場者に対してデジタルスタンプカードみたいなことは出来ないか?とか、色々と検討する中で、「アーティストとファンのコミュニケーションの起点はライブなのでは?」というアイデアが出てきて、そこから、チケットサービスなのか、コミュニティサービスなのかといった議論を重ねた感じですね。最初はNFTとしてチケットを売る話もありましたが、NFTの発行にはどうしても時間がかかるし、入場時のチケットチェックなどのオペレーションを考えると、検討していた時点では現実的ではないのかなということで、既存のチケットサービスに付加価値をつける方向に舵を切って、今の「KLEW」の形となりました。

ーーチケットサービスを1から立ち上げるわけではないことが、「KLEW」の特徴だと思います。現場の人間やアーティスト、ファンが使わなければ、どれだけハイテクな技術でも意味がないですし、落とし込み方がすごくうまいですね。

江戸原:Kultureが単なるテック系企業ではないことがポイントですね。アミューズのグループ会社であるが故に、アーティストやマネジメント担当者との距離が近く、フィードバックがもらいやすいんですよ。彼らから意見をもらうことができるし、自分もマネジメント経験があるので、アーティストやマネジメント側の観点でサービスを捉えることができる。加えてアーティストとの関係値がすでにあることも、Kultureのアドバンテージです。

ーーもともとのルーツがあるので、アーティストに寄り添う姿勢が垣間見えます。

江戸原:お客さんに喜んでほしい気持ちはもちろんあります。ただ、お客さんが何を喜びとするかというと、アーティストが良いものを作ること、その作ったもので良い体験ができることだと信じたいんですよね。アーティストにとって本当に役に立つサービス作りを突き詰めた結果、まずは今の形になりました。

ーー先ほどアーティストやマネジメントからフィードバックをもらいやすいとのお話しがありましたが、立ち上げの過程で、印象に残ってる意見やコメントはありますか?

江戸原:The Novembersの小林(祐介)さんと、君島大空さんからのコメントはシンプルに嬉しかったですね。 こう書いてほしいといったことは全く伝えていないのですが、アーティスト自身が気兼ねなくファンとコミュニケーション出来そうだ、と言ってくれたことはとても嬉しかったです。

ーー「KLEW」を運営するうえで、大事にしていることや理念はありますか?

江戸原:今のフェーズではアーティストやマネジメントが、このサービスを使うことでどう見えるかをすごく意識しています。多種多様なSNSを使いこなし、ファンと近い距離感で活動している人たちだけではなく、発信は多くないけれど、楽曲やパフォーマンスで勝負しているアーティストにも「KLEW」を使ってもらいたいので、ファンの方々から「なんか変なサービスに手を出したな」と思われないように配慮しています。

“アーティストが気軽に「ありがとう」と言える場所を作りたかった”

ーー「KLEW」にはチケット認証以外にも、たくさんの機能がありますね。ライブに参加したユーザーとアーティストだけが会話ができるチャンネル機能はとてもユニークだと思いました。

機能紹介>チャンネル

江戸原:ライブに来てくれた人たちに対して、アーティストが気軽に「ありがとう」と言える場所をデジタル上に作りたかったんです。特に昨今のオープンなSNSでは、色々な配慮をする必要や、言葉選びに細心の注意を払うことが過剰に求められている場合もあるのかなと感じています。でも、実際にライブに来てくれているお客様に対してであれば、もう少し伝え方が変わるのではないのかなと。どんなアーティストも、ライブに来てくれた人を信頼していると思っているので、アーティストにとっても、その信頼できる人達へ気軽に何かを伝えられるように、「ライブに来てくれた人」だけのクローズドな場所にしました。

ーー僕も実際に体験させてもらいましたが、ファンの方が集まって自由に話している様子は、昔のSNSコミュニティを彷彿とさせますね。ただその輪の中に本人が登場することはこれまでになく、すごく新鮮でおもしろいですし、新しいコミュニティの作り方だと思いました。

江戸原:偉大なギタリストの方と会話する機会があった際に、その方が「ファンはアーティストの鏡」とおっしゃっていたことがあり、実際にアーティストにKLEWを使っていただき改めて実感しました。今回でいうと、The Novembersさん、君島大空さんだからこそ、チャンネルの中が終始居心地の良い雰囲気だったんだと思います。

 集まっているけどお互いに交わらない感じがすごくいいなと思っていて。ライブもそうですよね。みんなバラバラに集まって、同じものを見て帰っていく。高揚感や1つのものに取り込まれていく気持ちよさもあるとは思いつつ、みんなが個人として楽しむ場にもできたのは、良かったなと思っています。

ーーそのほかの機能面でいうと、スーパーメッセージ(投げ銭機能)や、バッジ・トークンについてはいかがでしょうか?

江戸原:スーパーメッセージに関しては、まずシンプルにチケットと物販以外の売上を作ってアーティストの活動に貢献したいという想いから始まっています。投げ銭というのはアーティストからするとデリケートな話だと思いつつ、オンラインライブでは当たり前なのにオフラインだと何故?とも思っていて、良いコミュニケーションの落としどころ、例えばバッジをリアルグッズとしても受け取れるなど、を探っていきたいです。

機能紹介 > スーパーメッセージ

 バッジとトークンについては、ファンとアーティストが関わった証を残せたらいいなと思って実装しました。「私はあのライブにいた!」と言いたくなる時ってあるなあというファンの気持ちに寄り添う観点と、「この人はこのライブもいたんだ」というアーティストやマネージメントサイドのマーケティング観点でそれぞれ発展性がありそうだなと。バッジは、例えば「ライブに行った証」としてKLEW内で発行しており、将来的にKLEW以外のサービスでも同じことが証明できるようにとトークンも発行しています。

機能紹介 > バッジ・トークン

ーーまだ課題はあると思いますが、本来届けたいアーティストとファンにしっかりと届き得るサービスだと思いました。

江戸原:将来的にはどんなアーティストにも使ってもらえるように成長していきたいと思っていますが、現段階ではまず数千人規模のライブでアーティストやファンの方に楽しんでもらいながら、その上で必要と思われる機能を充実させています。

ローンチ以前に、様々なマネージメントの方やアーティストの方とお話しさせていただき、SNSとどう違うのかとか、ファンクラブではダメなのかといったお声もたくさんいただきました。ファンクラブは好きになった後に入るもので、SNSとかYouTube、サブスクリプションは、好きの一歩手前の段階から触れるものと考えています。ライブを起点に考えていたのもありますが、まずは、この2つの層の間、というか共存する場所に、「KLEW」というサービスを置きたかったんです。

ーー実際に公演で運用されてみて、チームとしての手応えはいかがですか?

江戸原:ローンチ前の仮説として、例えば「来場者の●割の方が使ってくれるだろう」とか「1人あたり●回のメッセージを送るだろう」といったことを数値として設定していたのですが、多くの項目でそれを上回る結果となりました。ので、スタートとしては好調と言っていいと思います。

 特に来場者に対するチャンネルへの参加率の高さには驚きました。KLEWはサービスの特性上、参加のためにチケット購入とは別のアカウントを作っていただいた上で、チケットの写真やスクリーンショットをアップロードしてもらう手順が必要となるため、正直ここが一番不安、というか肝になるのかなと思っていたのですが、サービスとしてAIも活用しながらシームレスな体験を実現しつつ、そこに各アーティストからの告知協力も得られたことが大きいと思います。

 そして、SNSで会話されてきた内容と、KLEWのチャンネルで会話される内容はやはり全く違うものでした。ライブに参加したファンもアーティストも気兼ねなく会話できている証として、曲名などの固有名詞が多かったり、来た人じゃないとわからない細かい瞬間の会話だったり、とてもポジティブかつ熱量の高い空間があったので、ライブを更に価値のあるものに出来る手応えがありましたね。スーパーメッセージも実際に投稿されており、アーティストへの収益的な面での貢献も、まだまだ改善の余地はありますが、一定果たせたかと思います。

 最後に、これは本当に基礎的なことかもしれませんが、サービスが止まる、チケットが読み取れない、といった問い合わせが殺到するようなトラブルがひとつもなかったことは、すごいことだと思っています。良いUXを実現してくれた社内のメンバーや、開発パートナーなど、いろんな人たちに感謝しています。

ーーチケットを買ってからライブに行くまでの時間、ライブが終わって感想を言う時間もファンにとっては特別ですが、あまりライブ体験として可視化されていないですよね。

江戸原:そうですね。ステージ自体は2時間ですが、チケットが当たったところからもうライブの始まりだし、終わった後にみんなで「この前のライブ最高だった!」と語り合うのもライブの一部なんだと思います。

ーーライブ前、ライブ本番、ライブ後を包括するサービスがなかったので、1箇所でできるようになると、すごく濃厚なものになりそうです。

江戸原:日々活用しているSNSとは違うサービスに工数を割いてもらう以上、それに見合う価値を提供できるかというところが問われるかと思いますが、今回もう1つ感じたのは、アーティストの心理的安全性は高そうだなということです。オープンなSNSだと、どうしても嘘か真かわからない要素も混じってしまうけれど、ライブに来てくれた人に限ったクローズドな場所の中での「今日のライブはすごく良かった」といったコメントは、アーティストにとって、SNSのものより信頼性があるものなのではないかなと思いました。そして、どんな想いでライブに来ているのかが可視化されることで、アーティストのメンタルにもポジティブに影響できたらと考えています。

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